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文字数 797文字


「雪音ちゃん、来年卒業でしょ?就職したいって言ってたし、時期的にちょうどいいかなって。何より、俺としては雪音ちゃんが欲しいんだよね。・・・なんか今、愛の告白ぽくなかった?」

最後のほうはスルーする。「なんで・・・ですか?」

「うーん・・・一言で言うと、仕事が出来るから?そして誠実だから?」

だから、なんで疑問形なんだ。
驚いたのは、自分の中に芽生えた感情だった。

「まあ、無理にとは言わないけどさ。ちゃんとした会社に就職したほうが保証は・・・」

「やります」

木下さんは固まり、目を見開いた。

「え?今、何て言った?」

「やります。一緒に働かせてください」

「・・・え、いいの?」

「木下さんが言ったんじゃないですか」

「いや、そうだけど・・・そんなに簡単に決めていいの?」

「聞いてすぐ、やりたいと思いました。だからお願いします」話を聞いて、嬉しいという感情が先に来たのが自分でも驚きだった。

「いや、お願いしてるのは俺だけど・・・本当にいいの?二言はない?」

「はい、お願いします」

木下さんの顔がみるみる明るくなっていく。こんなに嬉しそうな顔も出来るんだ。

「やった、雪音ちゃんゲットだぜ」木下さんは、やる気の感じられないガッツポーズをした。

「ポ◯モンみたいに言わないでください・・・」

「よぉーし、じゃあそーゆう事で、ヨロシクね雪音ちゃん」

木下さんがわたしに手を述べた。わたしはその手を取り、しっかりと握手を交わす。

「よろしくお願いします」

木下さんは鼻歌と共に、いつもより軽やかな足取りで厨房へ戻って行った。


──突然舞い上がった話だったが、不思議とわたしの心の中は、嬉々としていた。
ただでさえ生きづらい毎日に、ポッと光が灯ったような、そんな感覚を覚えた。
道筋が立った事。なにより、必要とされている事。それがこんなにも生きる活力になるんだと、初めて知った。

だから、後に店長となるあの人は、わたしにとって救世主その物だった。






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