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文字数 845文字
「じゃあ、おやすみなさい。今日は・・・今日も、ご馳走様でした」
わたしがドアを開ける前に、早坂さんが運転席から降りた。車の前方から助手席へ回り込み、ドアが開く。
「・・・ちゃんと降りれますから」
「この車高いから。念の為、よ」
「そこまで酔ってません」
それを証明する為、座席からピョンと飛び降りた。当然のように着地するつもりだったが、脳の指令が上手く身体に伝わらず、バランスを崩してしまった。案の定、また早坂さんの腕にしがみつく形となった。
「・・・・・・スミマセン」
おずおず早坂さんを見上げると、片眉を上げてニヤリと笑った。
「いいのよ」
この得意げな顔が、なんとも腹立たしい。
早坂さんから離れようと腕を伸ばすと、その腕を早坂さんが引っ張った。
「ぅおっ」わたしはまた、早坂さんの胸にしがみつく体制となる。「なんですか・・・」
「なにが?」
なにがって──また離れようと腕を伸ばすと、今度は両手首を掴まれ早坂さんの背中に引っ張られた。手と手がくっつき、結果、わたしは早坂さんに抱きついている状態となる。
「だから・・・なんですかっ」
「ふふ、酔ってるんじゃない?」
──これは、遊ばれている。
わたしはすぐに反撃に出る事にした。早坂さんの背中から脇へと手を移動し、思いきりくすぐってやった。
「ギャッ!ちょっ・・・やめ、やめなさい!」
「断る」ドスを聞かせて言い、くすぐる手に力を込めた。
「ゴメンゴメン!あたしが悪かったわ!」
早坂さんはわたしの攻撃から逃れようと、わたしを思いきり抱きしめた。身動きが取れないほど強く。そして、頭のてっぺんに何かが押し付けられた。早坂さんがふう・・・と息を吐き、それを髪の中で感じた。
その時わたしが思ったのは、いつ、髪洗ったっけ?家を出る前にシャワーを浴びたからセーフだよね。──いや、何がセーフ?
お酒が入っているせいか、緊張より安堵している自分がいる。
しばらくわたしを抱きしめた後、早坂さんは身体を離した。さっき息がかかった所に手を置き、子供のように撫で撫でする。
「帰りましょうか」