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文字数 853文字


それから、その日は何も手につかなかった。
授業も、友達との会話も、何もかも耳に入ってこなかった。
頭の中で繰り返されるのは、雪音ちゃんなんかきらいという言葉。

明日になったら全部、無かったことになってればいいのに。本気でそう思った。

でも、そんなことがあるはずはなく、本当に最悪なのは、それからだった──。


次の日、学校に行ってからすぐに気づいた違和感。
未来ちゃん以外の子も、わたしと目を合わせない。近くに寄ると、一瞬ピリッとする空気。そして、わたしの存在を無視して話し出す。

ああ、そういうことか。その時のわたしは、何処か冷静だった。そうなるかもという予感があったのかもしれない。

そしてその日の放課後、わたしは職員室に呼び出された。経験上、担任に個人で呼び出されるのは、あまり良い事ではない。
前に見たのは、クラスの男の子が裏庭の窓をサッカーボールで割った時だっけ。

ノックをして職員室のドアを開けると、担任がこちらに気づき、手招きをする。
わたしは少し緊張しながら窓際にいる先生の席へ向かった。

先生は後ろで1つに結んでいる長い髪を手で梳かすと、わたしに言った。「雪音ちゃん、ちょっとお話があるんだけど」

「はい」

少し躊躇い、「あのね、夏休み中、未来ちゃんが公園で怪我したよね?その時、雪音ちゃんも一緒にいたんだよね」

心臓がドキリと跳ねる。返事はせずに頷いた。

「うん、それでね・・・その時未来ちゃんが怪我をしたのは、雪音ちゃんが、未来ちゃんを引っ張ったからだっていう話を聞いたの」先生の声は優しく、慎重に言葉を選んでいるのがわかった。

「引っ張ってません」冷静に言ったが、内心は自分の声が聞こえにくいほど、心臓が鳴っていた。未来ちゃんが言ったの・・・?

「うん、そっか。でもね、未来ちゃんがそう言っているのを聞いた子がいるのよ」

それを聞いて、少し安心した。未来ちゃんが言ったんじゃないんだ。
たぶん、昨日のトイレでの会話を誰かが聞いていたのかもしれない。

「雪音"は"、引っ張ってません」事実を言ってるのに、なぜか罪悪感が拭えない。
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