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文字数 885文字
やってしまった──。
昨日の記憶を、呼び起こす。居酒屋を出た後・・・そうだ、ワインバーに行った。
そこは店長の知り合いの店で、帰ろうと思っていた矢先に、1杯サービスされて──・・・そこからの記憶がない。
久しぶりに、重度の二日酔いだ。こんな日に限って。昨日の自分を恨む。
わたしがこんなに酷いのに、その倍飲んでいる春香は生きてるだろうか。その通り、生きてる?とメールをしてシャワーへ向かう。
しばらく冷たい水を浴びて、幾分か頭はスッキリした。冷蔵庫を開けて、缶ビールを見た瞬間吐きそうになる。テレビをつけた瞬間、ビールのCMで追い討ちをかけられた。しばらく、ソファーで死人になる。
約束の時間までは、1時間以上ある。15分、15分だけ。アラームをかければ、大丈夫──・・・。
グァッグァッグァッ。グァッグァッグァッ。
──・・・アヒル。アヒルが鳴いている。
うるさい。しつこい。なんで、アヒル?アヒル・・・ああ、電話か。だから、なんで着信音を変えないんだ、わたし。手探りで耳元の携帯を手に取る。
「・・・あい」
「もしもし、雪音ちゃん?」
視界が鮮明になり、勝手に身体が起き上がる。クラクラして、携帯を床に落としてしまった。
「もっ、もしもし・・・すみません早坂さん」
「・・・大丈夫?声が枯れてるわよ?」
ゴホンと咳払いする。「寝起きだったもので」
「あら、そうなの。もうお昼よ?お寝坊さんね」
そう、もう・・・お昼・・・?
時計を見て、全身の血の気が引いた。
「どわぁ─────!!!」
待て待て待て!
11時45分!?待ち合わせまで、あと15分しかないじゃん!
落ち着け。ここからダッシュで10分。今すぐ出れば、ギリギリ間に合う。
「早坂さん!待ち合わせに遅れそうなのでかけ直します!すみません!」捲し立て、向こうの返事も聞かずに電話を切った。
シャワー後、化粧と着替えは済ませてある。
あとは、髪だけだ。洗面所の鏡で自分の姿を見て、愕然とした。ソファーに仰向けで寝ていたせいで、後頭部が荒地と化している。これだからショートは!直してる時間はない。水で濡らし、ワックスをベッタリとつける。
高速で歯を磨き、家を出た。