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文字数 825文字


「眠くないです」

「・・・頑固ねえ」 早坂さんの口調は呆れ笑いだ。

「早坂さんは、たらしですよね」

そんな事を言う気はまったくなかったのに、勝手に口から出ていた。やっぱりわたし、酔っ払ってる?

「たらし?って・・・ちょっと、何よそれ」

「そのまんまですよ。たらしの中のたらしだ」
そのまま窓に向かって呟いた。

「・・・初めて言われたわそんな事」

「そうなんですか?てっきり自他共に認めてるものかと」

ぶっきらぼうな言い方になり、ああ、やっぱりわたし、酔っ払ってるわ。

「なんだか言い方にトゲがあるわねぇ・・・ややっぱり何か怒ってる?」

「怒ってません」

「じゃあ、あたしの顔見て言ってみて」

「運転中は危ないので前を向いてください」

ウインカー音が鳴り、減速した車がゆっくりと路肩に停められた。わたしが隣を向くより先に、早坂さんがわたしの顎に手を添えて自分を向かせる。

「ん?」 早坂さんはそれしか言わない。

「・・・ほら」 今のは、わたしだ。

「え?」

「こーゆうの」

「何が?」早坂さんの表情を見る限り本当にわかっていないようだ。

「たらし」

早坂さんは目をパチパチさせると、自分でも驚いたようにわたしの顎から手を離した。

「すぐそーゆう事するところが、たらしって言ってるんです」

「・・・すぐそーゆう事って、あたしがいつもしてるみたい言い方ね」

はあ?口には出してないが、顔に出ているのが自分でわかる。いつも、してるだろう。あの時の首にキスとか、今日のキッチンでの事とか。

「わかりませんけど、わたしのように思ってる人は他にもいると思いますよ」

「あなた以外にこんな事しないわよ」

驚いたのは、わたしだけじゃなかった。早坂さんは何処か苛立ちながらも、自分の発言に自分で驚いていた。

「なんで?わたしだけ?」

いつもなら、ここまで食い付かない。高級ウイスキーがわたしを後押ししている。
早坂さんは、また同じ顔をした。困惑。でもここには、話を遮る人は誰もいない。わたしは待った、この人から返ってくる言葉を。




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