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文字数 946文字

「あの、瀬野さん」去ろうとしていた瀬野さんが振り返る。——この人達がいなければ、わたしは今、こうしていない。「ありがとうございます」

瀬野さんは軽く頷くと、来た道を戻っていった。


「さ、あたしたちも行きましょうか」

「・・・はい」

オネエの後に続き、数メートル歩いたところで——「あっ!!」

「ぎゃっ!・・・何!どうしたの!?」

思い出した。「アイス・・・」

「アイス?」

また戻り、辺りを探すと先程わたしが追い込まれていた場所に落ちていた。
拾い上げて袋の中からアイスを取り出すと、すっかり液体化している。

「ガーン・・・」

「びっくりした。何事かと思えば、アイスの心配?」

「・・・奮発したんです。いつもは買わないヤツを・・・」

これは、帰ったら冷凍し直して、また食べる。心に決めた。


「掴めない子ね。面白いわ」

「えっ」

オネエは、その言葉通りの顔をしている。「さっ、行きましょう」


家までは5分程で着いた為、とくに会話という会話も無かった。
オネエは辺りを見回しながら、時々わたしにも目を向け、歩幅を合わせて歩いてくれているのがわかった。疲れ切っていたわたしは、素直にそれに甘えた。


「今日は、ありがとうございました」

「あなたを見かけて良かったわ。この辺はあまり通らないんだけど。コレも何かの縁ね」

「・・・あの・・・」

「ん?」

聞きたいことは山程あるはずなのに、頭がまわらず、言葉が出てこない。

「大丈夫よ。今度、ちゃんと話してあげるから。今日は何も考えず、ゆっくり休みなさい」

—— やっぱり、この人は人の考えてることが読めるのか?

「わかりました・・・おやすみなさい」

オネエはニコりと微笑んだ。「おやすみなさい」

アパートの階段を登ったところで1度振り返ると、まだこっちを見ていた。
手を振り、早く行けと促す。

わたしは頷き、小走りで2階へ上がる。部屋に入り、電気もつけず窓に直行した。
バッグと買い物袋をベッドに放り投げ、カーテンを開ける。


———いない。


「・・・・・」

一気に気が抜け、そのままベッドに仰向けに倒れ込んだ。「いてっ!」さっき投げた袋に後頭部が直撃した。

あ・・・アイス、冷凍庫に入れなきゃ。
それより、今になって自分が死ぬほど喉が渇いてることに気づいた。
ペットボトルの水を一気に3分の2ほど飲み干す。ひと息ついて、残りも。










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