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文字数 801文字


「ノ・・・ノーコーコメントで・・・」

目が泳いでるのが自分でもわかる。

「そう、わたしには言えないのね」

「え?」

心なしか、空舞さんの声のトーンが下がった気がする。空舞さんはわたしの肩からソファーの背もたれへと飛んで行った。

「空舞さん?」

尾羽をこちらに向け、そっぽを向いている。

「優子とはそういう話をした事がないから。余計な事言ってごめんなさいね」

やっと聞き取れる、か細い声だった。それに、いつもより頭の位置が低い。もしかして、傷つけた?

「いや・・・あの、好意というか・・・そうですね。好意は、あるんだと思います。ごめんなさい、こーゆうのは初めてだから自分でも反応に困ってしまって・・・」

「あらそう、惚れてるのね」

空舞さんの声のトーンがいつも通りに戻った。クルリとこちらを向き、わたしの頭の上へ飛んで来る。わたしは頭上にいる見えない空舞さんを睨んだ。
騙された。意外とやり手だな。

「気持ちは伝えないの?」

「・・・伝え・・・られません」気恥ずかしさを紛らわそうとコーヒーの準備にかかる。

「どうして?」

「どうしてって・・・無理ですよそんなの」

「好きなら言うべきじゃないの?」

「簡単に言いますけど・・・わたしにはハードルが高すぎます」

「今まで誰かに告白したことはないの?」

──今日の空舞さんは、いったいどうしたんだろう。空舞さんとこんな会話をするのは初めてだった。

「ありません」

「こういうのは初めてって言ってたけど、初めて人を好きになったということ?」

これは、尋問だろうか。

「そうですね」出来るだけ無感情に徹する。

「24年も生きていて、そんな事あるのかしら。あなたって、やっぱり変ね」

言うんじゃなかったと後悔しても、時すでに遅し。無視して淹れたてのコーヒーをズズッと啜る。

「キスでもしたら?」

「ブォッファッ」口の中のコーヒーが豪快にシンクに飛び散った。── 最近、こんなんばっかだな。

「何を言ってるんですか・・・」


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