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文字数 825文字
「待って春香さん、俺、それ聞く勇気ない・・・」
「何言ってるの、ガキの恋愛じゃないんだから、こーゆう事はハッキリさせないとダメなのよ」
黙っているわたしに、春香が目で訴えた。早く、答えろと。
「優しい・・・人」
「だー!」春香は勘弁してくれというように頭を垂れた。「そーゆう事を聞いてんじゃないのよ。異性として好きかどうかって事!ラブよ!」
2人が真剣な面持ちで(特に一真くん)わたしの返事を待っているから、逃げる事が出来ない。
額に汗が滲んできた。
「わたしは・・・」
その時、チリンと、客の来店を告げるドアベルが鳴った。
「いらっしゃいませー!」思わず、声が上擦る。
春香は小声で舌打ちをすると、瞬時に営業モードの顔に切り替わり、お客さんを出迎えに行った。
──助かった。そう思ったのは、わたしだけではないようで、一真くんの顔を見てわかった。
お客さんが来なければ、わたしは何て答えていたんだろう。自分でもわからないが、すぐに否定出来なかったのも事実だ。
翌日が定休日の日は、飲みに行くという話になるのがお決まりのパターンだ。切り出すのは決まって店長か春香で、そのタイミングも決まって閉店後の掃除中。最初の頃は春香も遠慮して誘われるのを待っていたが、今となっては自ら奢られに行くんだから大したものだ。店長も決して嫌な顔をしないし、アル中同士、通ずるものがあるんだろう。
今日、切り出したのは一真くんだった。というのも、甥が世話になっているから、タダ酒を飲みに来いという凌さんの太っ腹な計らいによるものだ。春香の酒量を承知の上での申し出なので、尚更だ。
もしかしたらと期待を込めて店を出たが、やはり空舞さんはいない。
あの日、ここに居た空舞さんを思い出し、またどうしようもない不安に駆られる。
「わたしは、帰りますね」
「えっ、なんでよ!」
もしかしたら、家で待っているかもしれない。そう思うと、飲む気になんてなれなかった。
「ちょっと、用事があって」
「今から?早坂さん来てないじゃない」