p.16
文字数 872文字
「いや、わたしも行きたいんだけど、今日はちょっと・・・」
「早坂さんに連絡なら、向こうでも出来るじゃない。ちょっと抜けてもいいわよ」
「あー・・・」
「何よ、これから会う約束でもしてるわけ?」
「してません」というか、携帯の電源入れるのを忘れていた。
「じゃあ決定ね。待っててね〜ん、麦男くん」
「雪音さん、大丈夫すか?」
「あ、うん。行こっか」
「よっしゃ」一真くんは、小さくガッツポーズをした。
最近何かと断ってばかりだし、春香の言う通り
、感じ悪い女になりかけている気がする。
早坂さんには、春香が酔っ払って独演会に入った頃に連絡を入れてみよう。
?ラストオーダーを迎え、店内の掃除に取り掛かる。飲みに行くと決まった日の春香は、動く速さが2倍になる。それに加え、鼻歌だ。
わたしの事をわかりやすいと馬鹿にするが、お前も負けていないぞ。まあ、春香の場合、酒に限ってだが。
「チェックオーケーっす」
「よし、じゃあみんな出るよ〜」
4人で店を出て、わたしは思わず、その場で固まった。
「えっ・・・なんで」
見慣れた車と、こちらに向かってくる大きなシルエット。
早坂さんが、わたしの顔を見ながら近づいてくる。そして、わたしの前で足を止めた。
「こんばんは」
「・・・こ、んばんは」
と、春香がわたしの前にグイッと出た。「あらー!早坂さん、お久しぶりですぅ〜」
「お久しぶり。春香ちゃん・・・みなさんも」早坂さんが後ろの2人に微笑む。
店長は慌てたように頭を下げた。「ど、どうも、お久しぶりです」なんというか、綺麗な女性でも前にして照れているようだ。
「どうも」一真くんは、低い声で一言だけ。
「あの、早坂さん・・・」
「早坂さん、どうしてここに?雪音と約束ですか?」
わたしが何も言わなくても、話が済みそうだ。
「雪音ちゃんに話があるんだけど、借りてもいいかしら?」
「あっ・・・でもこれから・・・うおっ!」春香がわたしの背中を強く押し、早坂さんにぶつかりそうになった。
「どーぞどーぞ、持ってってください」
「おい・・・」
早坂さんはわたしの肩をガッチリと掴んだ。逃がさないというように。「そう、ありがとう」