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文字数 836文字
時刻は16時50分─。
ボディバッグの中身を確認する。携帯、財布、
ハンカチ、そしてナイフ。
よし、と家を出て、すぐに戻った。化粧ポーチからフェイスパウダーを抜き取り、バッグに忍ばせる。
一応、ね。
早坂さんはまだ来ていない。この前車を停めた場所には、白いワゴン車が停まっている。
待ってる間、ストレッチでもしとくか。屈伸をして、アキレス腱を伸ばす。
すると、停まっていたワゴン車が動き出だした。こちらへゆっくり向かって来くる。
わたしの前で停止すると、助手席の窓が開いた。
「えっ、瀬野さん?」
「走りにでも行くのか?」
「・・・なんで瀬野さんが!?」
「遊里に頼まれた。まず、乗れ」
「あっ、はい!」
車を出しながら、瀬野さんはわたしのアパートをまじまじと観察した。その表情で、言いたいことはなんとなくわかった。
「あの、早坂さんは?」
「飯の準備をするから代わりに迎えに行けと頼まれた」
「・・・そうですか。すみません」飯の準備って、早坂さんが作るんだろうか。「家、よくわかりましたね」
「大体の場所と、遊里から写メでな」
「写メ?」
瀬野さんが親指で後方をさす。「お前んちの」
「・・・ああ、なるほど」アパートの外観の写メってことね。いつ撮ったんだ。
「やってる事ストーカーだろ」
「まあ、あまり驚きません」
「今日も、家の前まで行けって何回言われたか」
「・・・お手数おかけしてすみません」
「それはいいが、写真で見るよりボロいな」
瀬野さんの、オブラートに包まないストレートすぎる物言いが、わたしはちょっとツボだったりする。正直なだけなんだよね。
「中は意外と綺麗なんですよ」
「そうか」
──そして、会話が途切れた。
車内に沈黙が流れる。せめて、音楽かラジオくらいかけてほしいんだけどな。静かすぎて、気まずい。
「あの、早坂さんの家って遠いんですか?」
「いや、遠くはない。道路が混んでるからな、あと15分くらいか」
「なるほど」
──ふたたび、沈黙。
早坂さんなら、何か聞かなくても喋り続けるのに。この2人って、本当に対照的だ。