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文字数 813文字


"5時に迎えに行くわね。晩御飯は食べちゃダメよ♡"

起きて、最初に見たメールだった。ご馳走でもしてくれるんだろうか。わたしに対する要求は多いのに、自分は言葉足らずだ。
今日会うわけだし、特に返信はしなくてもいいよね。顔を洗いに行こうとして、すぐに戻った。
駄目だ。返さないと、着信履歴が早坂さんで埋まってしまう。"わかりました。よろしくお願いします"と、返信する。

約束まで、だいぶ時間がある。まずは部屋の掃除だ。掃除機をかけて、床を拭く。そのあとキッチンとお風呂場を磨き、最後はトイレで締める。
所要時間、30分。狭い1Kの唯一のメリットだ。

窓の外は、これ見よがしな晴天。こんな日に出ないのは罪な気がする。買い物がてら、散歩に出た。

スーパーでパンとコーヒー、ストック用の食パン、お菓子を購入し、河川敷に向かう。
ベンチが空いていなければ土手にでも座って食べるかと思っていたが、ラッキー。2つ並んだベンチに先客無し。座りながらどっこいしょと声が出て、周りを見る。オッサンかわたしは。

どれどれ、まずはキミからだ。ハムとマヨネーズが入ったミニロールパンを一口で頬張る。が、すぐに後悔した。飲み込む途中に咽せて、慌ててコーヒーで流し込んだ。

早坂さんがいたら、誰も取らないからゆっくり食べなさい!なんて言われそうだ。
── ・・・ここで思い出すか、自分。

それから3個目のロールパンを食べ終えたところで、来客があった。
こんにちはと声をかけられ、初老の男性が隣のベンチに座る。定年後の散歩といった感じか。

男性は小さなクーラーボックスを隣に置いている。何が入ってるのかと思ったら、そこから取り出したのは缶ビールだった。プシュッと開け、一口飲むと、ふうと息を吐いた。

わたしは横目でチラチラと見ていた。こんな青空の下で飲むビールは最高だろう。わたしもコーヒーじゃなく、ビールにすればよかったか?
でも、平日の真っ昼間から、外で缶ビールを飲む若い女って、どうよ。







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