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文字数 824文字


おばあちゃんは、目にかかるわたしの前髪を横に撫でつけた。

「せっかく美人なんだ、あんまり痩せてはみっともないぞ」

「えー、わたしこう見えて、標準体重だけど?」本当は、しばらく体重なんて計っていない。ただ、ズボンが少し緩くなったのは事実だ。

「ちょっと待て、小遣いやるから・・・」

「あー!そろそろお風呂に入んなきゃ!」立ち上がろうとするおばあちゃんの肩に手を置き、自分が立ち上がる。

「いいから、貰っておけ」

「この前貰ったばっかりでしょ」

「だいぶ前だろう。お前が受け取らないから」

「受け取らないとは言ってないよ?たまに貰うから、ありがたみがあ・る・の」

おばあちゃんはやれやれといったように息をついた。「お前も頑固だからな」

「ふふ、いつもありがとう。おばあちゃん」





──それから1ヶ月後。
季節が春からから初夏へと変わる頃、おばあちゃんは亡くなった。
朝は誰よりも早いおばあちゃんが、起きてこなかった。最初に発見したのは叔父だった。
おばあちゃんは、布団で眠るように亡くなっていた。

わたしは、涙が出なかった。状況が理解出来なかった。だって、昨日まであんなに元気だったのに。いつものように、バイトから帰ったわたしに、ご苦労さんと声をかけてくれたのに。

なんで、突然いなくなるの。

おばあちゃんがいなくなってからも、わたしは毎日、おばあちゃんの部屋に行っていた。
何をするわけでもない。ただ、おばあちゃんの座椅子の隣に座ると、そこにおばあちゃんがいるような気がしたんだ。


おばあちゃんが亡くなってから2週間後、バイトから帰宅したわたしがおばあちゃんの部屋に居ると、襖が開き、叔父が顔を出した。

「雪音、ちょっといいか」

「うん?」

伯父は手に持っていた物をわたしに差し出した。茶封筒だ。

「おばあちゃんのタンスから見つかってな。お前宛てだ」

「え・・・」

封筒には、達筆な字で"雪音へ"と一言。裏には何も書いておらず、しっかりと封がしてある。
叔父はそれ以上何も言わず、静かに部屋を出て行った。
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