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文字数 834文字


「まだ地下鉄ある時間じゃない?」

「金曜日はこの時間、激混みなんで。わたし人混みに酔うんですよ」

「一緒の方向なの?」

──なんだ、この質問の嵐は。尋問タイム突入か?「・・・いえ、一真くんはみんなと合流しに戻りました。飲みに行ってるので」

再び、会話が途切れる。「そう。わざわざ送ってくれたのね」

「そうなんですよ。だから申し訳なくて」

「・・・気に食わないわね」

たぶん、独り言だと思う。それくらい、やっと聞き取れる呟き声だった。
「今、なんて言いました」

「ていうか、そんな時はあたしに連絡しなさいよ。迎えに行くって言ったでしょ?」

無視か。「早坂さんはそう言いますけど、わざわざ迎えに来てもらうなんて無理です。だったらタクシーで帰りますよ」

「あたしがいいって言ってるじゃない」

「それでも無理です。それより、さっきなんて言いました?」

「毎日、店が終わる時間に外で待ってようかしら」

「マジでやめてください」冗談に聞こえないから、こわい。そしてやっぱり無視だ。

「その子には送らせて、あたしはダメの?」

「・・・一真くんは一緒に働いてるからで、わざわざ来るのとは訳が違います」

いつもこんなに食いつかないのに、一体どうしたんだ、早坂 遊里。

「悲しいわ。遊里、とっても悲しい」

「それでも無理です。ところで、さっき言ってた話ってなんですか?」

早坂さんは、何も言わない。若干、ご機嫌ななめ?
「電話で伝えようと思ったけど、直接会って言うわ」

「えっ」

「明日、仕事終わり迎えに行くわね。何か予定ある?」

「いや、何もないですけど・・・わざわざ?」

「ええ、久しぶりに顔も見たいし」

月曜日に会った気がするんだが。「・・・わかりました。では、明日」



電話を切った後も、早坂さんの言葉がずっと頭を駆け巡っていた。
"気に食わないわね" それって、一真くんに送ってもらった事が、だよね。それってそれって、ヤキモチでは?
──・・・それはないか。溺愛父親モードか、オカンモードってオチもある。

本当、わからない人だ、早坂 遊里。


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