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「あなたにお願いがあると言ったのは・・・単刀直入に言うと、ある人に、渡してほしい物があるの」
わたしがキョトンとしていると、先を続けた。
「数ヶ月前、あなたに会った場所で、あなたのようにわたしの事が見える女性に出会ったの。その人は病を患い、余命宣告を受けていたんだけど・・・母親の形見のブレスレットをいつも身につけていたわ。ここに来ると病気を忘れられる、わたしが飛ぶ姿を見ていると元気が出るって。でも、突然倒れてしまって・・・その時、そのブレスレットが外れてしまったのよ」
「いつ・・・その人はどうなったんですか?」
「2日前よ。近くにいた人間が救急車を呼んで病院に運ばれたわ。叫んだけど・・・わたしの声は、誰にも届かないもの」
「それで・・・?」
「追いかけたけど・・・今は病院に入院しているわ。毎日見に行ってるけど、意識が戻っていないの。皮肉なものよね、誰にも見えないこの姿のおかげで会いに行けるんだもの。見ているしか、出来ないけど・・・」
「でも、見えないから、そのブレスレットをその人に届けれるんじゃ・・・」
「あなた、本気で言ってる?わたしの姿は見えないけど、ブレスレットは現実世界の物よ。人間の目には見えるわ」
「あ、そっか・・・」つまり、このカラスがブレスレットを運べたとしても、周りからはブレスレットが空を飛んでいるようにしか見えないという事か。
「気づかれないように届ける事は可能かもしれない。でも・・・わたしには、彼女の腕につけてあげる事は出来ないわ」
「そのブレスレットは何処にあるんですか?」
「誰にもわからない場所に保管しているわ」
「そうですか・・・わかりました」
カラスは首を傾げた。「本当に?やってくれるの?」
「はい。どこの病院ですか?」
「・・・中央病院というところよ」
「ああ、それならわたしも何度か行った事があるのでわかります。歩いても30分くらいかな」
「・・・ありがとう。それで、いつ・・・」
「明日にでも。夜は仕事なので、日中なら大丈夫です」
「そう・・・わかったわ。ブレスレットを取りに行ってくるから、窓を開けてちょうだい」