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文字数 833文字


予想外だったのは、鞘が吸収されず、鬼火の身体を分裂させた事だ。そして、わたしは見逃さなかった。一瞬だが、分裂したその隙間に見えな小さな黒い物体を。おそらく、あれが瀬野さんの言っていた本体。

分裂した炎はすぐにまた戻ったが、ヤツを挑発するという意味では成功したようだ。
鬼火は火柱を上げ、さっきとは非にならないほど激しく燃え盛っている。

── わたしは呑気に、昔の事を思い出していた。地元にあったお祭りも、こんなふうに大きな火が燃えていた。激しく燃える御神火が怖くて、でもカッコよくて綺麗で、父さんに抱っこされながら、ずっと見ていたいと思った。


わたしは、さっきと同じ事をした。鬼火に背を向け、走った。
すぐに感じた。向かってくる熱を。
ギリギリまでヤツを誘き寄せるつもりが、予想以上に動きが早い。不意を突くどころか、避けるのがやっとだ。

すぐに姿勢を立て直し、また走る。鬼火もすぐ追ってきた。わたしは持ってる刀に力を込めた。

今だ──前にジャンプしながら振り向き、その勢いで目の前にいる鬼火を横一文字に斬りつけた。鬼火の体が見事に半分に断裂する。
バランスを取って着地し、また元に戻る前に今度は立てに斬りかかる。
十字切れ目が入った。そして中から先程見た黒い塊が顔を出す。

あれを壊せば──でも、小さすぎて刀を当てれるか──鬼火はまた元に戻ろうとしている。わたしは咄嗟に鬼火の身体に飛び込み、その塊を掴んだ。
そこまでは良かったが、あまりの熱さに身体が動かずそのまま地面にダイブするように倒れ落ちた。手から塊が離れ、数メートル先に飛んだ。

──まずい。あれをまた取り込まれる前に壊さなければ。でも、身体が言う事をきかない。力が入らない。
地面に這いつくばったまま振り向くと、鬼火は元に戻っていた。わかったのは、本体ではなくわたしに向かおうとしている事。

──あ、終わったかも。
まさか自分が焼死するとは思わなかった。まあどうせ最後には焼かれるんだ、同じ事か。
覚悟を決めて目を瞑った。

「ごめんなさい」
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