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文字数 891文字


「良かった。じゃあ、明日また来るからね」

また来るという言葉に喜んでいるのは、泳斗くんの表情でわかった。

「明日!待ってる!」

「うん、そうだね」

また頭に触れようと手を伸ばすと、今度はすんなり受け入れてくれた。よしよしと撫でると、泳斗くんは気持ちよさそうに目を細めた。

正直、泳斗くんを1人残して去るのは心が痛んだ。何度も振り返ったが、泳斗くんはポツンとそこに立ち、しばらくこちらを見ていた。わたしが手を振ると、寂しそうに手を振り返す。引き返したい衝動を必死に抑えた。


「何度振り返れば気が済むの?」

言い方にトゲがあるのは、わたしが振り返るたびに頭にいる空舞さんもそちらを向くからだ。

「スミマセン・・・」

「置いて行きたくないのよね。あたし達がいなければ引き返してるわ」

「うっ・・・」 たぶん、その通りだ。「でもあの子、不思議な妖怪ですよね・・・喋れるし、人間ぽいし」

「あら、それを言うなら財前さんと美麗ちゃんだってそうじゃない?」

「そうですけど、泳斗くんの場合はなんていうか・・・」その先を、言葉で説明する事が出来ない。あの子を見た時からあるこの妙な違和感は何処から来るんだ?

「妖怪みたいな、人間?」

言ったのは早坂さんで、納得したのはわたしだ。

「ッ・・・そう!それだ!」

言葉で説明するなら、今早坂さんが言った事が1番近い。そう、あの子に対する違和感の正体はソレだったんだ。見た目は誰が見ても妖怪なのに、それ以上にあの子には"人間"を強く感じてしまうんだ。

「でも、それは何でだろ・・・」

「あなた、今頭の中でまとめたわね」

「えっ、あ、ごめんなさい。早坂さん天才ですね」

「あら、褒められちゃったわ」

「そうなんですよね、泳斗くんはどっちかというと人間みたいで・・・」

「雪音ちゃん、中に何か着てる?」

「・・・はい?」

「その服の中」

「・・・え、あ、はい。中はTシャツですけど」薄手のパーカーの中は、昨日寝る時に着ていた物だ。

「そう、じゃあ脱いで」

「はい?」

早坂さんは自分が着ていた黒いトレーナーを脱ぎ始めた。チラリとお腹が見えて、まさか、裸に!?──と思ったが、中にはシッカリと白いTシャツを纏っている。
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