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文字数 943文字


わたしのヘッドライトを外し、地面に放り投げる。「えっ」

そして、わたしの肩を掴み身体を離した。「怪我は?痛い所はない?」

「大丈夫です。この通り。それより、ごめんなさい。早坂さんのこと、足蹴に・・・」

わたしを離した手が、今度は引き寄せる。
気づけば、わたしは、早坂さんの胸に埋もれていた。
本来なら、この状況に動揺して、あたふたしていたと思う。でも、その前に苦しいが勝った。身をよじると、更に強く抱きしめられた。

「早坂さん、く、苦しい・・・」

早坂さんは腕を緩めてくれない。「心臓が止まるかと思った」髪に、早坂さんの温かい息を感じた。

苦しい。── 苦しいのに、身体の強張りがほぐれていくのを感じた。わたし今、メチャクチャ安心してる。良い匂いがするし、たぶん、このまま気を失っても、早坂さんになら身を委ねられる。
そう思った矢先、早坂さんはわたしの身体を離した。


「さあ、どうしてくれようかしら」

「・・・えっ」

「1人で突っ走らないって、約束したわよね?」ブラック早坂さん、降臨だ。背後から、地鳴りが聞こえてきそう。

「あー・・・でも、その、結果オーライということで・・・」

「向こう見ずにも程があるわ!あんな無茶な事して、何もなかったから良いようなものの、下手したら死んでたかもしれないのよ?」

「・・・生きてます」

「それに、あたしは飛び降りなさいって言ったわよね?なんで言う事を聞かないの?」

早坂さんは気づいていないだろうが、掴まれた腕に若干、指が食い込んでいる。

「・・・高さが高さだったから、早坂さんに怪我させると思ったんです」

早坂さんはわたしを見つめ、手の力を緩めると、溜め息をついた。「あたしの事は考えなくていいのよ。自分の事を優先しなさい」

「なんでですか?」

「なんでって、あなたのほうが大事だからでしょ」

「だから、なんでですか。わたしにとっては、早坂さんも大事です」

早坂さんは目を見張った。「・・・少なくとも、あたしはあなたより頑丈よ」

「中条の方が身軽だけどな」瀬野さんがわたしに差し出したのは、ナイフだ。いつの間にか拾ってくれていたらしい。

「あ・・・ありがとうございます」気付けば、大ムカデの姿は跡形もなく消えている。

瀬野さんは、わたしの頭をポンと叩いた。「よくやった。女のくせに、大した度胸だ」














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