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文字数 903文字


こんなにぐっすり眠れたのは、いつぶりだろう。夜中に1度も起きることなく、目が覚めた瞬間から頭がスッキリしていた。心なしか、身体も軽い。
おばあちゃんのおかげだろうか。

外は、どんよりとした曇り空だ。携帯の天気予報を確認すると、23時以降が傘マークになっている。ちょうど早坂さんが迎えに来る時間帯だ。降水確率は50パーセント。残りの50に賭ける。

昨夜貰ったポトフとキッシュを温めて、贅沢なブランチタイムとする。
一口食べて、今日も仰け反った。なぜ、こんな物を早坂さんが作れるんだ。料理人と言っていたけど、それが職業って事だよね。フレンチのシェフ?シェフって、そんなに自由なのか?
あの人の行動を考えると、いつ働いているのか疑問だ。

改めて、何も知らないよな、と実感する。早坂さんは自分の事をあまり喋らない。──わたしも、聞かないからか。
無意識に、溜め息が出る。考えるのはやめよう。せっかくの至福の時間が台無しになる。





その日の夕方、更衣室で着替えをしていると、先に出勤していた春香が顔を出した。

「雪音っ、急いで着替えて来て」それだけ言って、いなくなる。
なんだ?前掛けを結びながらホールへ向かうと、店長、春香の他に、見知らぬ男性が1人。

「あ、来たね。雪音ちゃん、紹介するよ。この子は今日からバイトに入る、滝口 一真(たきぐち かずま)くん」

「・・・あっ」──って、もう見つけたのか。

「雪音さんですね。一真です。よろしくお願いします」

「一真くんね。雪音です。どうぞよろしくお願いします」ペコリと頭を下げる。

「ちなみに彼は、凌ちゃんの甥っ子さんです」

「・・・えっ!あー!前に言ってた!」

「そそ、凌ちゃんのとこ手伝ってる、大学生の甥っ子さん。奪っちゃった」

「奪っちゃったって・・・いいんですか?」

「いいんですよ。あそこは叔父1人でも十分やれますから」笑い方といい、なんというか爽やかな青年だ。

「一真くんは飲食店でバイトの経験も多いから、戦力になってくれるはずだよ。わからない事は、お姉さん2人に聞いてね」

店長にお姉さんと言われると、癪に触るのは何故だろう。春香の顔を見て、同じ気持ちだと理解した。

「迷惑かけないように頑張ります」




















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