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文字数 935文字


失恋を経験した人間が挙って言うのは、時間が解決する。らしい。
恋愛を経験した事のないわたしも、ある意味、それがわかった気がする。

"どう見たって雪音さんの事好きでしょ"

昨日その言葉を聞いてから、わたしの思考回路は完全に停止していた。
何をしていても早坂さんの顔が頭に浮かび、幻覚まで見た。その度に、春香にヤク中と詰られ、一真くんには何度も額に触れられ、家に帰ってからも、ついていないテレビの前で1時間ボーッとしていた。

しかし、一晩寝て頭がリセットされると、嫌でも気づかされる。そんな事は、ありえないと。
あの早坂さんが、わたしの事を好き?あるわけがない。そんな理由がどこにも見当たらない。

のそのそとベッドから起き上がり、洗面所へ向かう。冷たい水で顔を洗うと、更に頭がスッキリした。馬鹿馬鹿しい。

コーヒーを淹れてソファーに陣取り、テレビをつけると、今日の占いをやっていた。
11月生まれの本日の運勢、下から2番目。
自惚れは厳禁。謙虚な気持ちで人と接しましょう。
決定打を喰らった。

── 一真くんめ。変な事言うから、混乱しちゃったじゃないか。とりあえず、人のせいにしておく。

早坂さんが迎えに来るのは夜の8時。それまで、何をしよう。今日は天気も良いし、邪念を取っ払うために、ひとっ走り行くか。ついでにパンでも買って、いつもの河原で食べよう。なんか、定番化してるな。


外に出て、あまりの気温の高さに一瞬引き返そうと思ったが、汗をかけば邪念も流れる。そう自分を奮い立たせて、スタートを切った。

いつものコースをいつもよりピッチを上げて走ると、汗というより、風呂上がり直後の状態になった。そのままスーパーでパンを買い、河原へ向かう。

ラッキー。いつも座るベンチは、どちらとも空いていた。
スーパーの袋からソレを取り出す前に、周りを確認した。よし、近くに人は居ない。
妙な緊張感を抱きながら、プシュッと蓋を開けた。限界まで乾いた喉に、勢いをつけて流し込む。

「ぷは──っ!」控えめに発したつもりだ。

とうとう、デビューしてしまった。平日の昼下がりに外で飲むビールは、最高以外の何者でもない。走って大汗をかいた後だから尚更だ。
前にここで会ったおじさんにビールをご馳走になった事はあるが、自分で買ったのは初めてだ。






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