p.12

文字数 903文字


「どーゆうこと?」

いつもと変わらぬ表情に見えるが──「若干、イライラしてません?」

「そお?」

「・・・違うんだったらいいんですけど」

早坂さんは、ダッシュボードに置いてあったタオルをわたしの頭に被せた。

「まあ、多少ね」

「えっ」

「シートベルトして」

早坂さんは、ゆっくりと車を走らせた。ワイパーが忙しなく動いているが、この雨ではあまり意味を成していない。

「こんな雨の日に、わざわざすみません」

「いいのよ、あたしが来たくて来たんだから」

「店のトラブルって、大丈夫なんですか?」

早坂さんはうんざりしたように息を吐いた。「ええ、お客さんと従業員の女の子がちょっとトラブっちゃってね。お得意さんなんだけど、酒癖に問題ありで、女の子に絡むのよ」

「あー・・・どこでもあるんですね」あのセクハラジジイを思い出した。

「いつもは慣れてる人間が相手するんだけど、今日はたまたま新人の子でね。反抗したのが気に食わないって騒いで、あたしが呼ばれたわけ」

「それで、どうなったんですか?」

「その人、元々あたしとは古い中だから、しばらく話に付き合って宥めたわ。そのあと家まで送って行って、この時間よ」

「ご苦労様です」

早坂さんはまた、深く息を吐いた。「飲み過ぎなければそうでもないんだけどねえ。一定量超えると、人格が変わるのよ」

「・・・わかる気がします。春香もそうなので」

「あら、そうなの。まあ、なんとなく強そうよね、あの子」

「強いなんてもんじゃないですよ。わたしが1杯飲み終わる前に3杯目に突入してるし、ビールからハイボールに切り替えて3杯目から酔い出すんですよ。その後はひたすら怒り上戸です」

早坂さんはハハッと笑った。「怒り上戸か。泣き上戸よりは良い気がするけど」

「確かに・・・ていうか、早坂さんって、どういう立場なんですか?そのお店で」

早坂さんは一瞬、驚いたようにわたしを見た。「経営者よ」

「・・・えっ!!」

「あれ、言ってなかったかしら?」

「聞いてません。ていうか、早坂さん自分の事全然言わないから、ほとんど知りません」若干、キツイ言い方になってしまった。

「あらあ・・・でも、あなたも特に聞いてこないじゃない」口を尖らせ、イジケアピールだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み