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文字数 849文字


「楽しかったけど、ビックリするんで、もうやらないでください」

早坂さんは眉を上げて笑った。「わかった。忘れた頃にやるわ」

「いえ、2度とやらないでください」

「あなたが怒らない限りやるわ」

「・・・怒ってるって言いましたけど」

「そお?」

「・・・乗るんで、鍵を開けてください」

早坂さんは笑いながら助手席のドアを開けた。
「はい、どーぞ」

「1人で開けれますけど」

わたしが乗るまで動かないのはわかっている。グリップに手を掛けようとしたその時、「どわっ!」またもや身体が宙に浮いた。そのまま、ポスンとシートに下ろされる。

「さっ、行きましょうか」

わたしが講義する前に早坂さんはドアを閉め、運転席へ回った。
今度はお姫様抱っこか。また、父さんを思い出した。子供の頃、父さんが乗っていた車も車高が高く、いつもこんな風に抱っこして乗せてもらっていた。

運転席に着いた早坂さんは、しれっとエンジンをかけ、車を走らせた。


「・・・無言が怖いわね」

「怒ってるアピールです」

「ふふ、口でアピールしちゃうのね。でも、元気出たみたいで良かったわ」

「え?」

「明日、無理に行くことないのよ?」

「・・・わかりましたか」

「あなたはわかりやすいもの」

自覚があるだけに、何も言えない。「あそこには、何年も行ってなくて。ずっと避けていた場所だから・・・正直ちょっと怖いと思いました。あ、公園の話ではないですよ」

「ええ」

「・・・でも、行かないのも嫌なので」そうしたら、後から後悔するのはわかっている。

「あたしはあなたの意思を尊重するわ。後悔のないようにしなさい。もし後悔しても、あたしがついてるわ」

── 不覚にも、少し泣きそうになった。
この人は、いつもわたしを見抜き、それでいて何も聞かず、いつの間にか安心させる。

「ありがとうです・・・早坂さんって、お父さんみたい」

ゴツンと鈍い音がした。早坂さんの頭が窓に当たっている。

「大丈夫ですか・・・?」

「大丈夫じゃないと思う。お父さんね・・・」

「わたしが言いたいのは、安心できるって意味です。早坂さんがそばにいると」
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