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文字数 870文字


鏡に映る自分を見て、思った事がある。
わたし、いつも同じ服装じゃないか?
Tシャツにパンツ。そりゃあ、デザインとか素材は違うけれど、形としては変わっていない。
スカートとか、ワンピース、持ってたっけ。
クローゼットを漁る程の衣類が無いのはわかっているが、駄目元で探してみる。
数秒で決着がついた。そんな物は、存在しない。見るからに、動きやすさ重視の物ばかりだ。

いや、別に、オシャレをする必要はないんだけど?自分の女子力の低さに少し、悲しくなっただけだ。
無駄な足掻きはやめて、白いTシャツと黒いジョガーパンツに着替える。これに白いスニーカーだ。そう、わたしはこれからも動きやすさ重視で生きていく。


7時50分に部屋を出て階段を下りると、ちょうど早坂さんの車が向かってくるのが見えた。
わたしの目の前で停まり、助手席のドアを開けて、思わず目を見張った。

「雪音ちゃん?どうしたの?」

「なんで、スーツなんですか?」

早坂さんが自分を見る。「ああ、知り合いのお通屋に行ってきたところなのよ。着替える時間なかったからこのまま来ちゃったわ。さ、乗って」

「・・・あい」

黒いスーツに黒いネクタイ。普段、ラフな格好の早坂さんしか見たことがないから、新鮮すぎて緊張する。

早坂さんが笑いながらわたしの頬を小突いた。「なに?なんかよそよそしいわね」

「スーツ、似合いますね」

「そお?ありがと」余裕な笑み(に見える)。

「なんか、ムカつく・・・」

「ええ!?なんでよ!」

「似合いすぎて」それに比べて、わたしはこんな見窄らしい、女子力皆無な身なり。「自分の貧相さが際立ちますね・・・」

「あら、あたしは、あなたのその気取らないカジュアルさ好きよ」

──好きよ。服装がね。

「どうも」

「それに、あなたは何を着たって隠しきれない可愛さが滲み出るから」

「どうも」納得してるのは、言った本人だけだ。

「ご飯は食べた?」

「はい、パン食べました」

「・・・パンって、もう少しちゃんとした物食べなさいよ」

「昼間の残りだったんです。明日まで残しとくのもなあって思って」河原でカレーパンとビールを頂いた事は黙っておこう。






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