p.11

文字数 937文字


未来ちゃんは、指で涙を拭った。「雪音ちゃんは、優しいね。あの時と変わらない。あの時も、わたしを責めなかった。悪いのは、わたしなのに」

──何も、言えなかった。

「わたしね、本当はわかってたの」

「え?」

「雪音ちゃんがやったんじゃないって。でも、怖くて・・・あの時、わたしは何かに引っ張られた。絶対、あそこに何かが居たはず。そうでしょ?」

──何も、言えない。何て、答えたらいいの。未来ちゃんがどこまで本気で言っているか、わからない。

「あの時、雪音ちゃん、誰かに喋りかけてたよね。自分の足元指して、ここに居るって」

あの時は、わたし自身も、何かわかっていなかった。わたしにしか見えないという事実に恐れるわけでもなく、ただ不思議に思うだけだった。

「雪音ちゃん、"見える"んでしょ?」

とぼける事も出来た。でも、未来ちゃんの表情は真剣そのもので、本当の事を言わなければと思った。

「うん。見えるよ」

未来ちゃんは一点を見つめ、固まった。そうだと思っていても、核心を突かれると恐怖を感じるんだろう。信じているから、そう思うんだ。

「幽霊・・・?」

やっぱりそう来るかと、少し笑ってしまった。「正確には違うけど・・・」

「ごめん!やっぱいい!そこは知りたくないかも・・・」

「うん」わたしも、伝える気はない。

「・・・あの時、雪音ちゃんはわたしより上に居たのにね。わたしを引っ張れるわけないのに。何かが居たっていう事実を認めるのが怖くて・・・雪音ちゃんのせいにした。本当にごめんなさい」

わたしは今まで、未来ちゃんの立場になって考えた事があるだろうか。目に見えない何かが、自分を襲ってきたら?もしかしたらそれは、見えるよりも恐怖なのでは?

「・・・もう、謝らないで。未来ちゃんが怖かったのも、わかるから。誰も悪くないよ」

「言えなくて、辛かったよね。言っても、誰も信じてくれないから・・・あの時の雪音ちゃんの気持ちを考えると、本当に辛かったと思う。ごめんね、信じてあげれなくて」未来ちゃんの目から、涙がこぼれ落ちた。

「未来ちゃん、お願いだから、謝らないで。あの時は、お互い子供だったんだし、どうにも出来なかったよ。それより、泣かないで。わたしが泣かせてるみたいじゃん」笑いながら言うと、未来ちゃんもごめんと、笑った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み