p.2

文字数 836文字


次に、1階の奥にあるおばあちゃんの和室に向かう。
コンコンとノックをして襖を開けると、おばあちゃんは座椅子に座り、テーブルに本を置いていた。

「おば〜ちゃん、ただいまっ」

おばあちゃんは眼鏡を下げ、上目でわたしを見た。

「おかえり。本日もご苦労様、だな」

「ふふ」おばあちゃんの隣に座る。「何読んでるの?週刊誌?」

「ああ、これで世の中の事を勉強してるんだ。ご飯は食べたか?」

「うん、食べたよ。てか、おばあちゃん、テレビっ子だから大体の事わかってるじゃん」先日、有名な俳優が亡くなったのも、わたしはおばあちゃんの口から最初に聞いた。

「テレビは耳を鍛える。活字は脳を鍛えるんだ」

「ふふ、そっか。あっ、そうだ、おばあちゃんにお土産」

先程コンビニで買った物をバッグから取り出し、テーブルに置いた。

「おお、この前のパンか?」

「そう、メロンパンね。この前のとは違うやつだけど、こっちのほうが美味しいんだ」

先週末、お昼に食べていたメロンパンをおばあちゃんにおすそ分けしたら、大変気にいったのである。おばあちゃんはメロンパンを手に取り、指で感触を確かめた。

「・・・おばあちゃん、潰れてる」

「この皮が美味いんだよな。サクサクっとして」

「そうそう、この前のよりサクサクだよ。でも中はしっとり」

「ありがとうや。明日のおやつだな」

「うん、そうして」

おばあちゃんは、しわしわの手でわたしの手を握った。

「雪音、おばあちゃんに金なんか使う事ないんだぞ。自分に使いなさい」

「って言っても、100円ちょっとだから」

「それでもだ。お前は人に気を遣ってばかりで、自分の事には無頓着だからな」

「そお?」

「ご飯だってまともに食べてないだろう。いつもパンじゃないか」

「そんなことないよ?店では美味しい賄いが出るし。パンはね、好きで食べてるの。子供の頃からパンさえ与えておけば機嫌良かったらしいよ、わたし」

「家でご飯を食べないのも、叔母に気を遣ってるんだろう」

「・・・時間が合わないだけだよ。わたしも自由にさせてもらってるから」


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み