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文字数 845文字


「イジケてません」

「ハハッ、スベる雪音さんも貴重すね。マジで可愛い」

マジで心が折れそうだ。



掃除を済ませ、店を出たのは22時30分を過ぎた頃だった。傘をしっかり掴んでいないと負けそうな程、強い雨だ。
早坂さんの車は見えない。予定より30分も早いから、無理もない。

「じゃあ、わたしはここで待ってるので。お疲れ様でした」

店長がみんなを送っていくという事で話はついている。「大丈夫?鍵持ってるんだから、中で待ってればいいのに」

「いえ、もうすぐ来ると思うんで大丈夫です」それに、店に1人で居て、万が一誰か来たら嫌だ。

「俺も一緒に待ちますよ」

「・・・えっ!いやっ、大丈夫だよ」

「来るの11時くらいじゃないんすか?女性1人でいるのも危ないし」

「ここらは人通りも多いから大丈夫だって」

「だからこそ、酔っ払いに絡まれるかもしれないし」

「ないない、だとしても交番近いし。本当に大丈夫だから」

「いいじゃない。一真くんがそう言ってるんだから。嫌なの?」

「嫌とかじゃなくて!・・・天気も天気だし、わざわざ付き合ってくれる事ないから」春香め、余計な事言いやがって。正直、2人の時の一真くんはちょっと苦手だ。

「大丈夫すよ。暇だし。俺はタクシーで帰るんで」

だから、そんなに笑顔で言われると──「・・・アリガトウ」


店長と春香が先に帰り、雨の中、一真くんと2人で早坂さんを待つという不思議な時間に突入した。傘に当たる雨の音で、思うように会話が出来ないのが救いだ。

ふと一真くんを見て、気づいた。「一真くん、傘ちっちゃくない?肩濡れてるよ」

「ああ、これ折り畳みなんすよね。こんなに降るなら、ちゃんとしたの持ってくればよかった」

「交換しよ。わたしの大きいから」

「いや、大丈夫です。雪音さんが濡れたら困るし」

「サイズ的にわたしのほうが合ってるでしょ。いいからほら」自分の傘を一真くんに持たせ、無理矢理交換する。

「じゃあ、2つ差ししますか」そう言うと、一真くんが1本、わたしに近づいた。「雪音さん、そっち側、濡れないようにしてくださいね」














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