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「いや、そうでしたね」 ごめんなさい、話題を変えたかっただけです。
「あなた、昨日の夜いなかったでしょ。何処に行ってたの?」
結局、逃れられないのか。「早坂さんの所にお邪魔してたんです。空舞さん来たんですか?」
「ええ、どうせまた何処かでアルコールでも飲んでるんじゃないかと思ったわ」
「・・・人をアル中みたいに」
顔を洗いに洗面所へ向かうと、空舞さんも肩に飛び乗り、付いてきた。鋭いクチバシがわたしの口元に近づく。
「匂うわね」
「えっ!」 思わず、口を手で塞いだ。「にほふ!?」
「若干、アルコールの匂いがするわ」
「・・・ああ、早坂さんの家でウイスキーを少し・・・」
「結局飲んでたんじゃない」
「少しですよ、少し」と、いうことにしておこう。
「あんな物の何が良いのかしら。本当に人間はわからないわ」
愚かと言われなかっただけ、良しとしよう。
「ところで、あなたと遊里は恋人同士なの?」
「ブッファッ」顔にかけた水を思いきり吸ってしまった。鼻の中にツーンと痛みが広がり、苦しい。「はい・・・?」涙が出てきた。
「違うの?」
「違います・・・なぜに?」
「そんな雰囲気に見えたから。でもそう、違ったのね」
「そんな雰囲気って、どんなですか?」
わたしの肩にいる空舞さんに鏡越しに問いかけた。
「あなた達を取り巻く雰囲気よ。親密そうに見えたから」
「親密、ですか」
「距離感といい、ね」
「・・・まあ、アレはあの人の通常モードなので」
わたしにしか、しないらしいが?昨日の事を思い出し、またモヤモヤしてきた。それを拭(ぬぐ)うようにタオルで顔を拭く。
「好意はあるの?」
手が止まり、タオルに顔を押し付けたまま、「はい?」
「あなたよ。遊里に好意はあるの?」
さっきから、何なんだこの"人"は。
「それ、聞いて意味があるんですか?」
「興味本位よ」
「・・・さあ、コーヒーでも飲もうかな」
逃げるようにキッチンへ向かう。まあ、ずっと付いているんだが。
「はぐらかすのは肯定ということ?」
何も、返せなかった。かと言って、否定も出来ない。