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文字数 836文字


それから数日して、お母さんはわたしを病院に連れて行った。それが、"初めて"の病院だった。これまで、風邪を引いて病院に行くことは何度かあったけど、その病院は熱があったり、怪我をしている人はいない。

聴診器を当てられるわけでもなく、喉を見られるわけでもない。先生に聞かれた事に答え、言われた事をする。読み書きに始まり、身体能力、判断能力、あらゆる事を"テスト"された。
当時のわたしにはそれがどういう事かなんてわかるわけもなく、楽しいとすら感じていた。

その後、先生がお母さんに何を話したかは知らない。わたしは別室で待たされていたから。
帰りにお母さんから聞いた話では、先生はわたしを褒めていたとか。同年代の子に比べて、とても優れていると。

でも、お母さんはあまり嬉しそうじゃなかった。精神に異常はないとわかり、他の病気を疑ったからだ。娘は幻覚が見えている。だから、脳の病気だと思った。

次は、大きな病院で検査を受けた。その時はわたしも同席していたから先生の言葉を覚えている。
脳には特に異常はないですね。それを聞いたお母さんは良かったと安堵していたけれど、その表情はどこか暗かった。


帰宅し、検査を頑張ったご褒美にと買ってくれたケーキをお母さんと食べながら、わたしは聞いた。

「お母さん、雪音のこと嫌い?」

お母さんは目を見開き、全然進んでいないケーキの隣にフォークを置いた。

「なんでそんな事聞くの?」

「雪音が変だから」

お母さんはわたしの手をギュッと握った。「雪音は変じゃない。嫌いなわけないでしょう」こんなにお母さんにまっすぐ見られたのは久しぶりな気がした。「そんなふうに、思ってたの?」声が震えている。
お母さんは椅子から立ちあがり、わたしの元へ来ると、その腕でわたしを包み込んだ。

「お母さんが雪音を嫌いになることなんて絶対ない。何があっても・・・わかった?」

お母さんの胸にもたれかかりながら、決めた事がある。この先、何を見ても── 何が起こっても── 全部、知らないフリをするんだ。

「うん」



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