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文字数 1,006文字


泳斗くんは照れたように俯いた。それが可愛いったら。

「最初は水太郎って言ってたわよ」

「空舞さんシャラップ。それで、どう思いますか?前に川で見た妖怪と似てるなって思ったんですけど・・・」

「そうねぇ、目と耳は同じように見えるけど、アレとはちょっと違うわね」

ちょっとどころか、アレとは一緒にしてほしくない。

「人間に害を与えるようには思えないんですけど、どうするべきですか・・・?」

早坂さんは柵に肘をかけて身を乗り出した。「ねえ泳斗くん、あなたそこから出て歩いたことはある?」

「あるよ。ダメなの?」

「ダメじゃないわ。人間に近づいたことはある?」

泳斗くんはすぐに首を横に振った。「ボクがここから出るのは人間がいなくなってから」

「そう。ここから出て何をしてるの?」

「走るの!人間みたいに!」

「今やってみてって言ったら、できる?」

「できるよ!」嬉しそうに言うと、泳斗くんはチャポンと池にダイブした。
それから動きはなく、水面が静かになる。どこに行ったんだろう。早坂さんの隣から池を覗き込んだその時、バシャッ!と水しぶきが上がった。

「ギャーッ!」

そして次の瞬間には、泳斗くんが目の前の柵にしがみついていた。驚いて退いた分、水の被害は最小限にとどめられた。

「ビッ、ビックリした・・・」

「凄いジャンプ力ね」早坂さんは冷静だ。

泳斗くんは手足を使って器用に柵をよじ登り、わたしの前に着地した。
至近距離で見る泳斗くんは、とても小さかった。身長は100センチ前後だろうか。人間で言ったら3、4歳といったところだ。

泳斗くんはまじまじとわたしを見上げた。この距離といい、さっきまでの警戒心はだいぶ薄れたようだ。驚かせないようにゆっくりとしゃがむ。いつもなら早坂さんが動きを見せるが、今日は黙っている。こちらもそこまで警戒する必要はないということか。

目線を合わせ、手を伸ばす。泳斗くんの大きな目に、わたしが映っている。

「握手。わかるかな?」

泳斗くんは首を傾げたが、すぐにわたしの手を取った。ヒレのある小さな手はとてもヒンヤリしている。

「ユキネ」泳斗くんが言った。

「そう。わたしはユキネ、だよ」

次に、空舞さんを指差す。「アム!」

空舞さんにこれといって反応はない。そして早坂さんを見上げる。

「ハヤサカユーリ!」

早坂さんは片眉を上げてニヤッと笑った。

「頭が良いのね。ユーリでいいわよ」

「ユーリ!」泳斗くんが復唱した。

「凄いね。泳斗くん、わたしより頭いいよ」
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