第664話 ~♡

文字数 2,409文字

「荷物をすまんな」
「いえいえ~ジョーさんは片腕ですので~。このまま私が持ちますよ~」
「この借りは後でまとめて返そう」

 基本的には身内以外とは関わらないジョージにとってセナの親切は見返りをせねばと思うモノだった。

「ジョーさんにとって、私は友達です~?」
「む、関係的にはそうなるだろうな」
「ふふ。なら~見返りなんて気にしなくて良いですよ~。もう他人じゃないんですから~」
「そうか。確かに……そうだな」

 今までの人生経験からして、身内以外には疑いをかけるのがセオリーだった。
 しかし、自分の考え方が少しばかり固すぎる事をセナの言葉から認識させられた。

「それで~、目的地はどこです~?」
「『スイレンの雑貨店』だ。古馴染がやっている店でな」
「あら~。そうなんですか~」

 (リンカ)のカタログ写真を撮って貰った所だったとセナは記憶していた。
 いつか覗きに行くつもりだったが、彼の知り合いの店だったとは。

「場所はわかる。40年前と変わっていなければな」
「何年の付き合いなんですか~?」

 そんな話をしながらセナとジョージは並んで商店街を歩き出す。
 端から見れば、美人で抜群のプロポーションを持つセナに異性は誰もが一度、彼女を見る(主に胸)。しかし側を歩いているジョージの存在がある故に声をかけられずにいた。

 何だアレ?
 アフターか?
 ホームヘルパーかな?

 などと二人の関係性を何処と無く考えさせられる絵面である。

「ユニコーン」

 と、ユニコ君とソレに集っている三人の子供グループに遭遇した。

「あら可愛い~」
「こんなにデカかったか……?」

 セナは身長的には拳一つ分しか変わらないユニコ君に手を振り返し、ジョージは毎年のお歳暮に送付されているユニコ君の写真から、もっと小さいサイズだったと記憶していた。

「うわー、なにこの女! デッケー!」
「中々のぷろぽーしょんですね。柊先生では比べ物になりませんよ」
「ぼん、きゅ、ぼん、じゃん! あー、やらしい!」

 短髪のわんぱく小僧、眼鏡をかけた知的な少年、可愛らしいハーフアップの女の子の三人。実年齢6歳の三人は片腕のジョージよりも目立つセナに反応する。

「あら~、あらあら、あら~」
「わっ!?」
「な、なんですか!?」
「迫ってくる!?」

 生意気=可愛いの方程式が成り立つセナは三人の児童を見た瞬間、愛でるモードへ。補食(抱きしめ)を開始する。

「何かコェェ!」
「にげっ、逃げるんですよ!」
「わっ、わっ、わわわ~!」

 横幅にも広いユニコ君を盾に四人はぐるぐる回る。
 あらあら~、と、助けてー!×3の鬼ごっこは、変に騒がしくなった。

「セナ、落ち着け」
「ユニコーン」

 ジョージとユニコ君に止められたセナは、うふふー、と細い眼を少し開いて三人を見下ろす。三人は獲物を見る眼にガクガクブルブルしつつ近くの柱の影に避難していた。

「……子には人気があると思ったのだがな」
「ふふ。どうしても~止まらない衝動って誰しも一つは持ってると思いますよ~」

 セナは子供三人に、~♡、とハートを飛ばす。ひっ! と三人は飛んで来るソレに逃げ場を失って萎縮していると、

「ほっほう」

 その、~♡、をガッ! と横から掴み、握り潰す男が横から現れた。





「なんだぁ? この♡は」
「アニキ!」
「マサさん!」
「マサヨシさん!」

 現れたのはマッスラーの間では松林の次に有名なマッスラー、国尾正義(くにおまさよし)だった。
 子供三人は彼の登場に縋る様にサッとその背後に回った。

「……中々だな」

 ジョージはひと目見て、国尾の肉体は並大抵でない月日と努力をかけたモノだと察する。

「ほっほう! 貴女のかい? この♡は」
「あら~貴方……とても強いですね~」

 セナは児童三人を補食す(抱きしめ)るには国尾の存在は決して無視できないと悟った。

「ほっほう……」
「あ、アニキ! ヤバいよ! この女……ヤバい! 良くわかんないけど……ヤバい!」
「ボクも今まで無い恐怖を感じましたよ。ホラー映画を観た後に一人でトイレに行けるボクが!」
「マサヨシさん。絶対に離れないで! 離れた瞬間……食われる!」
「うふふ~」

 ジョージとユニコ君は取りあえずセナを止めたが、何を諌めれば事が収まるのかちょっとわからない状況だ。

「ワシもまだまだ青いな」

 ……こんな戦いがあるとは知らなかった。この歳で“学び”を得られるとは。

 ジョージは状況を見定め、事が最も最善に収まるタイミングを図る。
 ユニコ君は子供達は国尾に任せて仕事に戻った。

「国尾正義」
「鮫島瀬奈~」

 呼吸するかのように次の言葉は自己紹介だった。相手の名も知らぬまま会話を進めるのは場のマナーに反する。

「この“♡”中々に硬いねぇ。愛の純度が高い。今も俺の手の中で存在し続けている。これは貴女の愛の度合いを現していると言う所か」
「可愛い物を愛でる行為を~越える感情がありますか~?」

 まだ、♡、生きてんの!?
 非科学! 非科学ですよ!
 早く捨ててー!
 と、子供三人は国尾の手の中にセナの♡に怯える。

「案ずるな、子供達よ」

 ほっほう! と国尾は拳に力を入れると己の愛で、カッ! とセナの♡を相殺し、破壊した。
 パラパラ……と形を失った♡の残骸が国尾の手の中から落ちる。

「貴方もそのレベルには足をかけている様ですね~」

 セナは頬に手を当てて微笑みつつ薄目で国尾を見下ろす。

 ほっほう……体格と身長は俺が上なのに、一瞬だけ、見下ろされたと錯覚しちまったぜぇ?

「うふふ~」

 今までの敵で最も“強い”しかし……背後には子供達が居る!

「俺も負けられないんでね!」

 国尾もセナに比肩するオーラで対抗する。自分が最後の砦ならば愛は止めどなく溢れ出る!

 美女とマッチョが向かい合うと言う摩訶不思議な状況と、ソレをどこで止めるか見定める片腕の老人。そして、知らぬ顔で愛想を振り撒くユニコ君。

 その混沌っぷりに商店街の常連客も、なんか今日は平和過ぎたよなー、と当然のように静観していた。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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