第498話 23年前 コンサート会場

文字数 2,136文字

「……総員、報告」
『こちら、機関室。怪我人は無し』
『船内はチェック中です。今のところ、軽傷者が二名』
『甲板は被害無し』
「ふぅぅ……」

 咄嗟の回避運動による船体、船員の被害が無い様子にマッケランは安堵の息を吐く。そして、

「一体、今までどこに居たんだ?」

 ブリッジから出て改めて肉眼でその姿を確認する。
 『WATER DROP号』
 半年も行方不明だったその客船は海流に流されるがまま、こちらには背面を見せていた。そして、

「――歌?」

 客船から流れる歌が、その不気味な様を一層際立たせる。





『誰か! 居るか! 居るなら合図を送ってくれ!!』

 夜闇の中、『ガルート号』は『WATER DROP号』と並走しながらライトを当てつつ船内に生きている者へ呼び掛ける。

「船長、あれから半年ですよ? 食料は保って1ヶ月ですし……」
「どうします?」

 世界中が探し回っていた客船が目の前にあるが、船員達は乗船する気にはなれなかった。
 理由は明らかに異常な様が五感全てが感じ取っているいるからである。
 完全に人の気配が皆無。灯りもなく、海流に任せて漂うだけの鉄の箱。見ているだけで寒気が止まらない。

『マッケラン』

 甲板にいる船員から無線を借りたジョージがブリッジへ連絡する。

『客船に乗り込む。近づけてくれないか?』
「ジョージ。本気か?」

 まるでこの世から隔離された様な客船には、パニック映画のような得体の知れない何かが存在していてもおかしくない雰囲気が漂い出ている。

『元々、この為に来たのだ』
「明るくなってからの方がいいんじゃないか?」
『この海域に長く留まるのは危険なのだろう? 乗り込むのはワシだけで良い』
「…………いや、チームを行かせる。生存者が居た場合、人手が必要だからな」
『すまんな』

 ブリッジの無線を切ると、マッケランは改めて『WATER DROP号』を見上げる。音楽は今も尚、流れている。

「悪魔が潜んで居そうだ」





 『ガルート号』は『WATER DROP号』の速度に合わせて接触すると、ジョージを筆頭に、4人の船員が共に乗り込んだ。
 4人の装備はライト、拳銃、防弾ベストと言う最低限の危険性を考えた装備である。

「あー、やべぇ、やべぇ。鳥肌が止まんねぇ」
「……ほんとよ。一体、この船で何があったの?」
「なんだ、この音楽……不気味だが、妙に和む」
「狂気と安堵をブレンドしたような歌だ。混沌だな……」

 乗り込んだのは、甲板でジョージと共に『WATER DROP号』を初期発見したマーカス、船医のステラ、機関士のフェインとジョイスである。そして、

「あまり、船内の物に触れない方がいい」

 何一つ物怖じせずに『WATER DROP号』を見据える――神島譲治を含める五人であった。

「Mr.ジョージ。銃を」
「すまんな。だが、使う機会は無いだろう。お前達も発砲はするな。いいな?」

 ジョージは拳銃をホルスターごと受けると装着する。
 映画のような怪物がいるハズもないが、銃を持ってきたのは精神的に余裕を持たせる為だ。

「まずはどこに行きますかい?」
「灯りをつける。放送が生きていると言う事は、電気が通ってると言う事だ」

 船内全体に放送されている歌。その原因を究明する前に船内に光を宿さなくてはならない。

「全員で固まって移動するぞ。単独行動は死に直結すると思え」

 こんな状況でも、一切の怯えを見せないジョージに一同は拳銃以上の安心感を覚えた。





 船内に入ると歌は闇の中で響き続ける。しかし、それは時折ノイズが走り、不気味な様を割り増しにしていた。

「コイツか」

 フェインは機関士の経験則からブレイカーボックスを見つけ蓋を開く。

「あぁ、駄目だ。壊れてる」
「ショートしてる感じだな」

 ライトを当てながらフェインとジョイスはレバーを上げ下げするが反応は全くない。

「積乱雲が絶えず生まれる海域だぜ? 半年間、何度も食らってたら避雷機能はさすがにオシャカだろうよ」
「……しかし、船内はあまり荒れてる様子がないわね」

 マーカスとステラは周囲の様子を確認しつつ、何が起こったのかを読み取っていた。
 ジョージも、テーブル等を脇に避けて、拓けた広間を見て、当時の様子を推測し、その眼に映す。そして床に僅かな血痕を見つけた。

「Mr.ジョージ。それは……」
「血だ。だが、致命傷ほどではない」

 広間の各所に点々と残る血痕にジョージ以外の全員が息を飲む。

「ってことはやっぱり……食料を巡って殺しあったのか」
「……いや、恐らく違う」

 マーカスによる一般目線での見解をジョージは否定する。

「壁には血痕が殆んど無い。あるのは床だけだ。もし、殺し合いが起こったのなら、船内はもっと荒れているだろうし、凶器も落ちているハズだ」

 冷静なジョージの視野に4人は驚く。まるで、そう言う現場を日常的に見てきた様な、確信めいた口振りだったからだ。

「…………」

 アキラ……お前がやったのだな。
 例え酷い混乱が起きても、彼女なら収める事が出来ただろう。そう言う事を何よりも気にかける義娘だったから――

「ブリッジに行く。この放送はそこから流れてるハズだ」

 その意見に意義はない。一番の手がかりはソコにあるだろう。
 ジョージの先導の元、五人は最上階にあるブリッジへ向かう。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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