第47話 シズカと無償の愛
文字数 2,183文字
シズカは話しかけて来たお洒落な服装と髪の色をした男たちの少し驚くも、交番でケンゴのアパートの場所を聞く手間が省けたと思い、一緒に行くことにした。
「ほら、乗って乗って」
何故か外からは中が見えないマジックミラーのバン。都会への知識が無知である故にシスカは乗る。
「ちょっと待った!」
そこへ、リョウとノリトが現れた。シズカを含む、全員が現れた二人を見る。
「何だ? お前ら」
「狩人」
「はぁ?」
ノリトのニヒルな言葉に男達は怪訝な顔をしてリョウは、よくそんな恥ずかしい言葉を口にできるな、と親友を見る。
「お前らみたいな獣に鼻が効くんだよ。いいからその
「お前らこそどっか行けよ。俺たちはこの子を送っていくだけだ」
「中の見えない車でか? 普通にあり得ねぇだろ」
そうなんか? とシズカは男達を見る。すると、一人がシズカの腕を強引に取るとバンの中へ投げ込み、扉を閉めた。
「!」
「おい!」
リョウとノリトが思わず前に出ようとすると、男達は各々で武器を取り出す。
「悪いな、もう客は決まってるんだ。この娘の事を凄く気に入っててねぇ」
シズカは駅前に現れた時からロックオンされていたらしい。
「そっち系かよ。悪いが……こっちも余計に引き下がらないぜ」
「……」
女の子を無理やり連れていこうする現状にリョウは拳を強く握り、腕に力が入る。
「ガキがなめた口を効いてんじゃねぇぞ」
「サクっと殺ってサクっと行きますか」
「このナイフよぉ。買ったばっかなんだよぉ」
男達は何度もこんなことをやっているのか、リョウとノリトに相対する事に抵抗はない。
「こ、このシチュエーションは! 都会はやっぱ凄いのう!」
男達と現れた二人の対峙。
シズカは兄の部屋にある漫画でしか見たことのない展開を目の前にバンの中から食い入るように成り行きを見守る。
「ノリ、武器持ちで注意するのは刃物だけだ。アレは身体のどの部分に当たっても致命傷になる」
「分かってるよ。お前んとこの爺さんにそう言うのも事を教えて貰ってる」
道場を営むリョウの家では、古くから続く兵法を護身術として教えている。
一色触発の空気。何がきっかけて火蓋が落ちるか分からない。
「待てぇい!」
その声に五人は新たに現れた男に眼を向けた。
「誘拐拉致監禁は犯罪だぞ! その娘を離してもらおうか!」
全員が、誰だ? と現れた筋肉マシマシのパツパツのスーツ男を見る中、シズカだけが、
「く、国尾さんじゃ!」
集中線で強調されそうな登場をした国尾の出現には素直に驚いていた。
「おいおい、なんだアイツは。お前らの仲間か?」
「ちげーよ」
突如として現れた国尾に五人は困惑する。
相対する者たちの中では誰の知り合いでもないが、国尾の発言から女の子を助けに来たのだとノリトとリョウは察した。
「チッ、うるさくなる前に全部サクッとやっちまうか」
「ヤッちまうだとぉ……」
男達のその言葉を聞いて国尾は力を入れると、バリィ! と爆発したように上半身のスーツがはじけ飛ぶ。ボタンが飛び、男の額にコンッと当たった。
「俺はどっちでもイイぜ!」
「はは。なんだコイツ変態かよ」
「おい、待て」
ナイフ持ちの男が前に出ようとすると仲間が国尾のバルクアップした身体を見て止める。改めて見ると、凄まじく鍛えこまれた鋼のような国尾の身体は立ちふさがるだけで威圧感が半端ない。
「うっ……」
ジロッと見てくる上半身半裸のマッチョな国尾に男達はたじろぎ、ノリトは一週間ほど前にプールで獅子堂に投げられた事を思い出す。
「人が異性を求めるのは仕方のない事だ。ソレが人としての当然の
ふざけた格好のクセに、まともな事を語り出す国尾。その様に五人は圧倒されて言葉を失っていた。
「つまり、お前たちが最も求めているのは他者からの愛……そう! 無償の愛だ!」
国尾はわっと笑顔になる。
「ほっほう! 抱きしめてやるぞぅ! 姉御たちからも許可が出てるからなぁ! こんな
それは冗談ではなく、本気の本気で彼らをそう言う目で見ている眼光だった。
「全員逃がさんぞ」
え? 俺らも!?
と、リョウとノリトも背筋が凍る。
その後は電光石火だった。五人はその場から、わぁぁぁ! と力の限り逃走。一人こけた男をノリトは助け起こし、貞操の危機に一人も見捨てず逃げ出す。
駐車場には、ほっほう! ほっほう! と変な声を上げる国尾だけが残され、
「――――よし、確保」
騒ぎを聞きつけて駐車場に現れた警官に、ぱさっ、と上着をかぶせられる。
「なになに? 女の子を助けに来た? 周りには誰もいないぞ。とりあえず交番で話を聞くから行こうか」
「あ、ちょっと待ってくれや~」
バンからシズカが飛び出した。
国尾参戦、バリィッ! ほっほう! 逃げていく五人、警察の登場、と言う一連の流れをケイとシオリは物陰から全部見ていた。
「やべ、判断ミスっちまった」
ケイは国尾が己の欲望を合法的に叶えるために弁護士になったヤベー奴だったと思い出す。
「ふっふふ。あっふふ。ケイ、私たちも行きましょうか、ふふ」
シオリはそんな一部始終を見てツボに入ったのか、笑いを堪えながら親友と共に警察へ事情を話しに出て行く。