第609話 人違い

文字数 2,207文字

 偉人との対面お話……200円

 これはどういう了見でメニューに入っているのか全く持って不、明! しかも、誰を選ぶとかが記載の無い事からかなり曖昧なメニュー、だ!
 それは、かつてのマックのメニューにあった“スマイル0円”に近い所業。こっちの場合は金を取られる(一番高い)所を見るに、それなりのサービスが用意されているのだろ、う!

「お待たせしました、メルミークです」
「う、む!」

 暮石殿がメルミークを持ってくるとそのまま、よいしょ、と正面の席に座る。やはり、貴女が会話相手か……
 前日に文化祭を偵察したカツ(ビクトリア)の情報では王城総理の孫娘と言う話だ。そして、中々の高スペックを持つと言う情報もあ、る!
 しかし……鳳殿も言ってい、た! 女子高生は98%未知の存、在! 故に……会話の選択は慎重にしなければなら、ぬ!
 なんか周りから視線や意識を向けられてるのを感じるし……ちょっと緊張で震えてき、た!

『強引な手を使って本当にごめんなさい』
「…………」

 なんと! 暮石殿はフランス語で語りかけて来た! 必修な他国語は『英語』がデフォルトな義務教育。影で努力してる様も見て取れ、る!

『これは分かります?』

 次はブラジル語……だとぉ!? この子は……一体どれ程の引き出しを持って居るのだ!?

『じゃあ……これ――』
『ブラジル語で結構、だ!』

 小生がブラジル語で返すと、ぱぁ、と嬉しそうに微笑む。うむ、普通に可愛い。写真を取りたい笑顔、だ!
 その後はブラジル語にて会話を進める。カツに習ってて良かっ、た!

『今日は強引な事をしてごめんなさい』
『何故謝、る? 小生は悪いことをされたとは思っていな、い!』

 確かに対面までは少々強引な流れだったが、普段のハロウィンズの面々との関わりに比べれば容易き事。
 余裕を見せてメルミークを飲む小生の様子に暮石殿も雰囲気が柔らかくなった。

『今日は確認をしたかったんです』

 すると、暮石殿は真剣な様子で真っ直ぐ小生を見てくる。

『山下さんは昔……レスキュー隊に居ましたよね?』
『…………どこでその事を?』
『覚えてませんか? 13年前の○○ビル倒壊事故。そこで……私は貴方に助けられました』

 なんと言う事だ……あの現場に彼女が居た? 

『……どこまで覚えているんだい?』
『私が下階に取り残されていた所を貴方が見つけてくれました。怖くて動けなかった私を』

 暮石殿は胸に手を当てて当時を思い出す様に呟く。

『本当に、私を助けてくれてありがとうございました』
『――――暮石殿。一体なんの事だい?』
『え?』

 小生の返答に暮石殿は驚いた様子で眼を向ける。

『小生は確かにレスキュー隊に所属していたが……当時の○○ビル倒壊事件ではヘリに要救助者を乗せる役割だった。確かに……幼い暮石殿をヘリに乗せた記憶はあるが。お礼を言われる程では……』
『……私は確かに貴方に助けられました。当時とは貴方の見た目が違っていても、同じ人に二度も助けられて間違うハズがありません』
『事故にあった当時、君は幼かった。劇的な現場で何気なく手を差しのべた者を過剰にヒーローとして見る事は珍しい事ではない』
『違います。私は確かに覚えているんです。貴方が見つけて、私を出口まで誘導してくれた。マジカルリリリが護ってくれると――』
『ふむ……すまないが記憶にない。暮石殿の勘違いだろう』
『…………』

 小生はメルミークを飲む。うむぅ……これは良くない流れだ。空気が悪くなってきたぞ。

『で、でも……』
『小生がレスキュー隊を辞めたのはあの事件がきっかけだ。しかし、理由は理想との落差にこれ以上は続けられないと言う心が生まれてしまったからなのだ』
『理想との……落差ですか?』
『小生はレスキュー隊こそ、どんな時でも颯爽と現れるヒーローだと思っていた。昔からテレビの向こうに立つヒーローに憧れていてね。そんな“理想”が常に心にあったからこそ、その道を進むことに躊躇いはなかった』

 人を救う。色々な形があれど、一番理想に近いのはレスキュー隊だと思ったのだ。

『しかし、理想は所詮は理想だ。いつかは現実を知る。小生はあの時、崩れるビルを前にすくんでしまった。内部に入ることを恐れたのだ。ソレを察した同僚が代わりに中へ入った』
『…………』
『その後、小生は自分の理想が覚めた様に感じた。そして、こんな気持ちでは刹那を駆け抜ける現場では致命的になる。故に、非現実のヒーローを追いかける事にしたのだよ』

 追いかけるなら、可愛いヒーローが良いから、な!

『だから暮石殿がお礼を言う相手は小生ではなく、違う人物だ。何なら当時、任務に当たった同僚に話を通せるよ?』
『……いえ。大丈夫です』
『期待外れですまなかった』
『……私が勝手に勘違いしただけです。私の方こそ、山下さんの時間と手間を取ってしまってごめんなさい』

 気落ちする暮石殿。むむむ……美少女の曇り顔は世界の損、失! ここは紳士で大人な対応、だ!

『お互いに謝り合う変な構図になってしまったが……これも何かの縁だ。これからもマジカルリリリ友として時折、意見交換をしないかい?』
『――はい。是非』

 と、最後は良き笑顔で締めくくった。





“山下。今日の事はお前も忘れろ。これに関わると“日常の底”が抜ける。お前はその覚悟が必要の無い人間だ”

 そう“理想”と“現実”は違う。だからこそ、小生は君たちの様な未来ある者達の“理想”を護りたいのだ。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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