第335話 処刑宣言を受けた者
文字数 2,891文字
「雑誌の看板モデルやってますよ」
『後でソレ見せてよ』
「実物に会えます。あのカラスのナビが正しければ……」
オレはハマーの後部座席で、松林さんのハーレーの後ろに乗るカズ先輩に、マッチョ軍団で移動する経緯を通話で説明していた。
午前中の『タンカー奪還作戦』に関しては話さずに午後に起こった事だけを簡潔に伝える。
『それにしてもカラスのナビって。うけるー』
「ここが不思議の国だったらオレも心配ごとでは無いんですけどね……」
やってる事はメルヘンの領域だ。ただカラスを追う人選がグリム童話には絶対に出て来ない者たちばかりなのである。
ハッカー組織の幹部。マッチョが四人。バーサーカー一人。後、オレ。
『うけるー。そんで向かってる先はどんどん郊外みたいだけど?』
「そうなんですよね……」
赤羽さんは最短距離で行くと言っていたが、本当にこの先にショウコさんはいるのだろうか。
大見さんは家族に夕飯の電話をしており、国尾さんは目を閉じて腕を組み瞑想中。イントさんは赤羽さんと会話をしつつ、カラスを見逃さない様に運転していた。
住宅街に入ってもカラスは更に行く。そして、その住宅も減って山道に入り始めた所で、
「人だ」
道に身体を張ってこちらを止めようと乗り出す三人の男が居た。
イントさんはゆっくり停車し、ハザードをつけ、後ろでは松林さんのハーレーも止まった。
「どうしたのかね?」
「何かあったんですか?」
赤羽さんとオレが降りて対応。マッチョじゃ威圧感が凄まじいからね。
「良かった。頼む、警察に連絡してくれ!」
「俺たちのスマホは使えないんだ!」
「事は一刻を争う!」
三人の言葉は普段なら主旨を求める所だが、今回に限り事情が違う。
「君たちは『何でも屋荒谷』かな?」
誘拐犯が残した唯一の手がかりを国尾さんを通してメンバーで共有している。
「そうだ! 俺たちは――」
男の一人が肯定した瞬間、オレは逃がさない様に掴みかかった。
「お前らか! ショウコさんはどこだ! こんな所で何をしてる!!?」
「ぐえ!? ……俺たちは……」
「鳳君」
「さっさと言え!! 隠すつもりなら――」
「鳳君」
「何ですか!?」
「彼、もう落ちてるよ」
いつの間にか立ち三角絞めを極めていたらしい。手を離すと男は糸の切れた人形の様に力を失った。
「まぁ、他に二人いるからね。そっちに聞こうかな」
赤羽さんとオレは残りの二人に視線を向ける。すると二人は、ひっ! と身を強張らせた。
「ま、待ってくれ! 俺たちが伝えたいのは姉さんの事なんだ!」
「そうだ! だから警察に連絡をしてくれ!」
姉さん……ってショウコさんの事か? こいつら誘拐しておいて、なんでそんなフレンドリーに呼んでんだよ。
「鳳君。まずは話を聞こう。彼らをどうするかはそれからでも遅くはあるまい」
見たところ、ショウコさんを誘拐した
「嘘は言わねぇ! 神に誓う!」
「俺らはどうなってもいいから、姉さんと社長を助けてくれ!」
オレはこいつらの言い分には納得が行かないが、赤羽さんの言う通り、話を聞くことにした。
青野は気を失ったショウコを肩に抱えて屋敷へ戻った。
「まったく。お前達! 次にショウコを逃がしたら絶対に許さないからな!」
「申し訳ありません」
「怪我はさせてないだろうな!」
「問題ありません」
「よし! 俺の部屋に運べ!」
そう言ってユウマは二階にある自分の部屋へ向かう。その後にショウコを抱えた青野も続いた。
他の四人はエントランスでユウマの指示があるまで待機する。
屋敷の二階は多くの部屋があるが、それは大半が客室だ。そして、二階も全ての窓が塞がれ、廊下は影1つない照明で照らされている。
その一番奥の広い部屋がユウマの過ごす部屋だった。中は控えめに言っても綺麗とは言えず、外に出ずとも生活しているかの様に飲食物が散乱している。
「ハハハ! ようやくだ!」
ユウマの指示で部屋のベッドに気を失ったショウコを青野は寝かせる。
「よし! 青野! お前は出ていけ!」
「何かあったら呼んでください。部屋の前で待機しています」
そう言って青野は一礼すると部屋を後にした。
「ショウコ。本当に手こずらせやがって……」
ユウマはショウコの手を結束バンドで拘束し更に鎖付きの首輪をつける。そして、鍵をかけ、鎖の範囲外にある机に置いた。
「おい。ショウコ」
「ん……」
「おい! 起きろ!」
「ん……なんだ……ここは――!?」
目を覚ますと、腕は拘束され首は鎖で繋がれている。身体を起こすとユウマは勝ち誇った様にショウコを見ていた。
「これでわかったか? お前がどれだけちっぽけで、俺がどれだけ凄い存在かと言うことを!」
自信満々にそう言うユウマにショウコは言葉よりも軽蔑の眼を向ける。
「……なんだその眼は? 何なんだよ! その眼はよぉ!」
「お前は恥ずかしくないのか?」
「はぁ?」
「何一つ自分の力で成していない。私がこうしてここに居る事に対してお前は何の労力を伴った?」
「馬鹿か! 『国選処刑人』は俺の手足だ! 殺意与奪を国から認められている最強の存在なんだよ!」
「本当に救いがたいヤツだ。そんな戯れ言を真に受けて、こんな犯罪行為を平然と行うとはな」
「わかってねぇな! 『国選処刑人』を自由に出来る俺に手に入らないモノはない! 現にお前はここにいるんだからな!」
「そんなものは砂上の楼閣だ。なんだか、お前が可哀想になってきたよ」
軽蔑する価値もない。ショウコはユウマには何を言っても心に響かない人間と言う判断を下す。
「お前は無価値な人間だ」
ショウコの哀れむ眼にユウマは数ヶ月前の出来事がフラッシュバックする。
“テメェ。あんまり調子に乗るなよ。ワシの警告は一度までだ。次にお前がワシの身内周りでうろちょろしたと判断したら殺す”
どこに居ても逃げられないと思わせる存在感と、決して嘘ではない言葉。
ユウマは会話すら許されない殺意を、現れた『国選処刑人』から直接は向けられたのだ。
「うるせぇ……うるせぇんだよ! あのジジィも、俺を拒絶したガキもよ!」
ユウマはまるで恐怖を隠す様に言葉を荒げる。
「俺は次期総理の息子だぞ! なのに……あのガキが……俺を拒絶しただけで何でこんな事になってんだよ! 俺が欲しいって言ったら全部俺のモンだろうが!」
「その結果がこの部屋か? 欲しいものはちっぽけなモノばかりだな」
「うるせぇぇ!」
ユウマはショウコを突き飛ばす。手を拘束されているショウコは成す術もなくベッドに倒れた。
「俺がちっぽけだと……? ならお前にわからせてやるよ!」
ナイフを取り出し、ショウコの上着を切り裂く。現れた豊満な胸はTシャツ一枚越しでも性欲をそそった。
抵抗できない身とその視線にショウコは本能的に恐怖を感じる。
「いいか、ショウコ……今からお前は全部俺の物ってことを再認識させてやる。動くなよ……」
そして、ユウマはショウコに覆い被さると、ナイフでTシャツをゆっくりと縦に裂いて行く――