第595話 ワンダーランド

文字数 2,042文字

 それは青天の霹靂だった。

 なんだ……? なんだコレは――

 校門にて、来客のチケットを確認する文化祭委員会の生徒は現れた三人の大人に驚愕していた。
 女性二人、男性一人。その女性二人が明らかに異質なのである。

「これで入れますか?」

 そう言って差し出されるチケットを照れながら受けとる。彼女は眼を合わせてくれるだけで全てを見透かされる様な神々しさがある。その口から放たれる発言や丁寧な物腰などの一挙動が向けられる度に、心を打たれる様な魅力が魂を駆け抜ける。

「最近の文化祭はセキュリティが徹底しているな」

 二人目の女性は美人な容姿の内面に潜む我の強さが滲み出ていた。立ち姿から己の志に絶対の自信を持つと言わんばかりにオーラが隠すこと無く溢れ、ソレはこれから戦に向かう戦国武将の如き気迫である。

「あ、チケットお願いしまーす」

 この男の人は二人に比べてラフ画の様に映り、対応が楽だった。





「ん?」

 風紀委員長の佐久真は文化祭委員会から流れてきた情報をLINEで受け取る。外からの入場者の事は、文化祭用のLINEグループで共有されているのだ。
 届くメンバーは校内の幹部人のみであるが。

『招待客』
『谷高影様、鬼灯詩織様、鳳健吾様、来場』

「どんどん外から来るようになったな」
「佐久真君、お客さん来たの?」

 そのLINEを横から暮石が覗き込む。

「鬼灯先輩のお姉さんだっけ? みんな興味あるよねー」
「鬼灯先輩は謎の多い人だからな」
「あの人は……まだかな」
「チケットを渡したからと言って確実に来るとは限らないぞ」
「うん……分かってる」
「……来たら連絡するよ」

 そう言って佐久真は風紀委員長の腕章を今一度、グイっと引き上げると校内の警邏へ向かった。





 受付で貰った『文化祭の栞』を片手にオレは思った以上の光景に心から湧き立つモノを抑えるので必死だった。
 目の前には祭りの屋台の様に多くの出店が並び、それを運営しているのは全て生徒なのだ。
 看板やメニュー表は全て手作り。通常の祭りでは絶対に見ることの出来ない特別な空間は、お祭り魂を持つオレからすればワンダーランドだね。

「あぁ、どうしよう。何から手を着けて良いのかわからないぃ」

 正直な所、リンカのクラスがやっている『猫耳メイド喫茶』くらいしか期待していなかった。しかし、ここに己の無知を恥じよう。
 採算を考える大人の運営する祭りの出店とは違い、手探りの様な荒い部分が良い味を出している。こりゃ、全ての店を回る価値はあるぜ!

「大学の祭りに比べると些かランクは落ちるが、未熟が垣間見える分、普段とは違うインスピレーションを得られそうだ!」
「アクセサリーを売り出している所もあるのね」

 エイさんと鬼灯先輩も『文化祭の栞』を片手に楽しめる雰囲気を感じたらしい。可能ならば、オレも文化祭を行う側にも回りたかったぜ。絶対楽しいに決まってる!

「私はヒカリの『猫耳メイド喫茶』へ行こう。二人はどうする?」

 エイさんの提案。
 ふむ、大本命をいきなり堪能するのも悪くない。リンカとは昨日から顔を合わせてないし、告白するタイミングを話す為にも寄っておくか。

「オレも『猫耳メイド喫茶』! に行きます」

 やっべ、テンション上がり過ぎて、“喫茶!”に力入っちゃった。
 オレは社会人。周りの学徒達へ大人の威厳を損なわせてはならぬ。

「私は『制服喫茶』に行きます。ここでお別れね、鳳君」
「名残惜しいですが……また状況が交わる事があればエスコートさせていただきやす」
「ふふ。変な口調になってるわよ?」

 オレの前世の魂が少し出て来ちまった。さぞ、有名なお祭り男だったのだろう。

「それでは、谷高さん失礼します」
「エイと呼んでくれ。ここには娘も居る。名字では聞き分けしづらいからな」
「わかりました、エイさん」

 と、鬼灯先輩は一足先に校内へ向かう。
 校内であれば変に絡まれる事も無いだろう。一応、鬼灯先輩は伊達眼鏡をかけて己の“魅了”を少し抑えているし。

「ふむ……」

 オレは文化祭の栞を確認。
 『制服喫茶』は三階にあるので三年生のクラスか。つまり、鬼灯先輩の妹君は三年生と言う事だ。『猫耳、メイド!(勝手に力が入る) 喫茶』でリンカに聞いて見るかな。

「我々も行くぞケンゴ。まずは『猫耳メイド喫茶』からだ」
「はーい」

 と、これから敵の首級を殺りに行く様な気迫を纏うエイさんは校舎に侵入。オレも後に続く。
 うわ、都会の高校って本当に綺麗だな。通うだけでテンションが上がりそう。
 『神ノ木の里』の校舎なんて、100%木造建築で現代文明を感じられるモノなんて、窓と黒板と黒板消しくらいしか無かったぞ。まぁ、里には殆ど生徒が居なかった事もあるが。

 ずんずんと武将オーラを出すエイさんに廊下の生徒達は道を開けてくれる。
 社会人が誤解されそうだが、彼女が特別なだけです。すると、

「ちょっと! その雰囲気は抑えてって言ったでしょ!」
「ヒカリ!」

 正面からヒカリちゃんの声。迎えに来てくれたようだ。猫耳メイド姿で。最高かよ。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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