第361話 どぉぉぉぉぉ!!?

文字数 2,410文字

 授業を受けていると何だか、ふわふわした感覚を覚えた。
 最初は気にならなかったけど、少しずつ違和感は大きくなっていく。
 何と言うか……身体の内側からどんどん暑くなっていく感じで、次第に頭がぼーとして行き、そのまま――

「リーン。結局、私たちの話してたヤツに決まった――って! ちょっと! リン――」

 親友(ヒカリ)の声も次第に遠退いて行く。





「風邪ね」

 保健室で保険医の土山(つちや)先生に温度計を見せられて、あたしは己に降りかかった違和感の正体を教えてもらった。

「大丈夫、リン? 記憶ある?」
「文化祭……出し物はお化け屋敷だっけ……?」
「こりゃダメだわ」
「ふふふ。鮫島さんは早退した方が良いわね。誰か迎えに来れる人は居る?」
「……一人で帰れます」
「リン。保健室に来るまでの記憶は?」
「……あるよ」
「じゃあ、大宮司先輩に運ばれたって覚えてる?」
「…………覚えてるよ」
「はい、嘘。私と水間さんで運びましたー。土山先生。護送人が必要です」
「そうね。一人じゃ帰れないわね」
「……大丈夫ですって……」
「それ、大丈夫じゃない人の常套句だからね。覚えておきなさい」

 ヒカリに軽く額を押されると、ロクに抵抗出来ずベッドにぽふ。自分でもかなり弱ってるのが解る。

「私の方でセナさんに連絡しておくから。土山先生。リンの事、見張っててください」
「ええ」

 そう言って保健室を出ていく親友を止める気力も起きない。

「気にしなくて良いわ鮫島さん。宿泊研修の後は一人か二人はそう言うの子が出るのよ」
「……そうなんですか?」
「環境の変化でね。肉体的じゃなくて、精神的な負荷で体調が乱れるの」
「……気をつけておくべきでした」

 私は定まらない意識でどれだけの人に迷惑をかけてしまうのかを考える。

「あまりネガティブな事は考えたらダメよ。貴女たちはまだまだ成長途中なんだから、これも社会経験だと思えば良いわ」
「……風邪を引く事がですか?」
「そう。他の人よりも一つ多く経験出来て良かったじゃない」

 そう言って笑う土山先生に、あたしも微笑み返す。
 お母さん……迷惑かけちゃうから、治ったら好きな物を作って上げよう。
 私は迎えが来るまでの間、眠る事にした。





「鳳君。実にご苦労様でした」

 オレは屋上で、パンを片手に『ユニコ君で踊ってみた』の動画を見ていると出張から帰った名倉課長が現れたので咄嗟に立ち上がる。
 いつもここで昼を共にする加賀やヨシ君は今日に限ってまだ外回りだ。

「お、お疲れ様です! ショ――娘さんは傷一つなく、関係者に引き継いでもらいましたので!」
「ええ。こちらでも先日挨拶に行きましたよ」

 え……? 名倉課長、サマーちゃんの所に言ったのか……。やべぇ。わしっ娘幼女に40過ぎのおっさん二人が居る場所にモデル美人の愛娘を託したとバレた。

「外国人の方の対応で少し驚きましたが、二人とも女性でしっかりしていると言うことで私も一安心です。鳳君は海外でもそれなりの人脈があるようですね」
「え? い、いやー! そうなんですよ! 海外勤務は無駄じゃなかったなぁ!」

 二人の外国人? 一人はサマーちゃんだろう。しかし、もう一人は心当たりがない。恐らく『ハロウィンズ』関係の誰か……

「……ちなみに対応されたのはどんな人でした?」
「褐色の若いブラジル系の方でしたよ。年齢的には鬼灯君と同じくらいだと思います。名前はビクトリア・ウッズ女子です」
「…………」

 誰だ? マザーは声質から中年だと思うし……ボイスチェンジャーを使ってたら解らないけど。

「おや? 鳳君。もしや知らな――」
「あ、ああ! ビクトリアね! 最近会って無かったからすっかり存在を忘れてました! 彼女に任せて置けば安心です!」

 後でテツに聞いて見るか。名倉課長と変に話が噛み合わないと色々とボロが出そうだし。

「ふむ。それでは鳳君。一つ聞いても良いですか?」
「何ですか?」
「娘とはどこまで行きましたか?」

 き、来た! この手の質問! そりゃ、ショウコさんに二度もリアルピー○姫させたのだ。ありがとうマリ○(キスInベッド)、な展開に発展したと思われても仕方ない。

「だ、大丈夫です! オレは彼女には傷一つつけてません!」
「ほう。私が娘から聞いた話しとは少し違いますね」
「え……? む、娘様は何と?」
「キスをして、一緒に湯を浴びたと」

 どぉぉぉぉぉ!!? ショウコさん! なんっなんっっっうわわわーい! 話しちゃったのぉ!? そう言うのはね! 暗黙の了解でダメなのよ! そう言えばショウコさんはその辺りはズバズバ言ってたなぁ! その点はきちんと話し合って置くべきだったぁぁ!!

「真意は?」
「…………まぁ……多少の解釈の違いはありますが……概ね間違いでは……ないです」

 恐くて名倉課長の顔が見れない。オレは全身に汗をダラダラ掻いているだろう。おしっこも漏れそう……

「そうですか」

 そう言うと、名倉課長はくるりと踵を返す。

「えっと……名倉課長?」
「何か?」
「その……怒ったりしてません?」
「鳳君」
「は、はいっ!」

 オレは背筋をピンッと伸ばして人生の中で一番の“はい!”をここで切った。

「これからも娘とは良き関係でお願いしますよ」
「――はい」

 オレがそう言うと名倉課長は振り向かず去って行った。心なしか、その背中からは嬉しさを感じ取れた気がする。

「……た、助かったぁ……」

 完全に姿と気配が消えてから、オレは再び座り込む。この分だと、ショウコさんは身内に今回の件は包み隠さず話してそうだ。

 取りあえず、名倉課長は許容してくれたみたいで一安心。次に連絡があるとすれば、ショウコさんのお母様か……あ、やべ。虎殺しのファン伯父さんも控えてるわ。

「……『流雲露天』……『流雲露天』っと」

 サラダサンドを再度十個追加注文。決して媚を売っているわけではないぞ。
 購入決定ボタンを押そうとした所で連絡が割り込んだ。相手は――

「はい、どうしました? セナさん――」
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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