第349話 色欲コロシアム
文字数 2,232文字
アパートの浴室は正直言ってそんなに大きくはない。一人なら程よい広さなんだけど、二人はちょい窮屈だ。
しかし、そんな事は理由にはならない。
じゃんけん、と言う絶対的なルールを提案したオレがそれに準じなければ無法地帯となってしまう。これはオレの未来と人権をかけた色欲との決闘……この場はまさにコロシアム! けど、解釈を曲げるのは良いよね!
「…………」
カチャッ、と背後の折れ曲がり扉が開く音。ショウコさんが来た。恐らく全裸。だが、今のオレには何の意味はない!
「……ケンゴさん。何故服を着てタオルで目を隠しているんだ?」
「一緒に洗おうかと思ってサ――」
そう言うと、目隠しの上からでもショウコさんの圧を感じる。何を馬鹿な事をしているんだ? と言わんばかりの無言の視線がのし掛かる。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………ごめんなさい。脱ぎます」
「そうしてくれ」
だ、ダメか。結構良い作戦だと思ったんだけど……冷静に考えるとキチガイの行動だ。
オレは浴室を出ると、一度目隠しを取って服を脱いで洗濯機へ放り込む。
うむむ。これからどうするか。何か良い案は無いか……閃け! …………そう都合よくは行かないか……
「取りあえず……タオルは二つ使って……」
目隠しと下半身は隠そう。これくらいはエチケットとして許容してくれるハズだ
シャワーの流れる音が聞こえる。いつも聞いてるハズの生活音なのに、何故にこうも官能的に聞こえるのか。人類の神秘である。
「ケンゴさん……ってまだ……」
「じゃ、じゃーんけーん!」
オレは目隠ししたまま、ぽん! とグーを出す。ショウコさんは何を出したのか不明だが、勝っててくれ!
「……仕方ない。それで良い」
か、勝ったぁ! ギリギリのギリギリで最低限の装備を確保したぞ! これで切り抜けるのだ!
すると、ショウコさんがオレの手を取る。
「前が見えないだろう? 段差があるから気をつけて」
「あ、はい」
今更ながら、相当にマヌケな事をしている気分になってきた。第三者が見たら、オレはアホ丸出しだろう。
「座って」
「はい」
椅子に座る。シャワーのお湯で頭を濡らされて冷たい温度差のあるシャンプーを泡立てる様に頭を触られる。
なんだか、他人に頭を触れるのは不思議な気分だ。頭部は人間で言う所の急所。それを他人に触れられる機会はそう多くはない。
子供の頃ならそれなりにあったが、社会人になってからは最も遠い感覚だろう。
「…………」
ショウコさんは恐らく正面に立って作業をしてくれている。普段はやらない事を一生懸命にやっている様を指使いから感じられ、なんだか微笑ましくなって来た。
「少しお湯が弱いな」
ふよん。恐らくショウコさんは前に出て手を伸ばしたのだろう。オレの顔面に布一枚の隔たりがない彼女の房が触れる感触。
オレに電撃が走る。のほほんとした雰囲気から一転。
三大欲求の一つが最果ての銀河からワームホールを抜けてオレの
「痒い所は無いか?」
「……ありません」
頭の泡を流される。
冷静に考えなくても……現状は、おしべとめしべが、にゃんにゃん、してもおかしくない状況だ!
だってさぁ……目隠ししているとは言え、目の前にはそんじょそこらでは、お目にかかれない美女が全裸で頭を洗ってくれているんだぜ? これはとんでもない事ですよ! こんなん、合意と同じじゃない?
だんだんとピンクな事に頭の中が染まっていく。やばい……このままだと……そうだ! 目の前に居るのは国尾さんだと思えば良い! なんたる天才的閃き! ほっほうレーザーで一気に
「背を向けてくれ」
「はーい」
新たな力を手に入れたオレに死角はない。美人? 巨乳? そんなモンはなぁ! 今のオレには屁でもないんだよ! ほっほうレーザーの前に現れるが良い!
「えーっと。こうか?」
その感触を背中に受けた瞬間、ほっほうレーザーが吹き飛び、護衛艦隊が壊滅した。
柔らかいモノが押し付けられる感触が背中に当てられている。こ、これは……やばい!
「しょ、ショウコさん! 何をやってるの!?」
「背中を洗っているのだが?」
「なにで!?」
「胸――」
「横に! ハンドタオルがあるから! それでお願い!」
「そうか」
ゼーハーゼーハー……今のはやばい……ソー○とか行った事なんて無かったけど、ハマる人の気持ちを凄まじく理解できた。
こりゃあ麻薬だ。強烈な外皮麻薬だ!
「ショウコさん……」
「ん?」
「さっきの洗い方……どこでそんな知識を?」
「何となく、そうした方が喜んでくれると思っただけだ」
そりゃ大喜びですよ。主に下半身が。今はギリギリで縮こまっているが、人と獣の境界線にいる。
「私も悪くない感触だったな」
そんな事を言うショウコさん。
マジか。他からの情報なしにそんな事をしてくるとは……なんて恐ろしい子なのよ。
「また前を向いてくれるか?」
「はーい」
こうなったら無だ! 何も考えず、己を人形と化せ! ボクはただのクルミ割り人形ダヨー。
「……」
ショウコさんは黙々と脇やら胸やらをハンドタオルで丁寧にこすってくれる。そして、シャワーでサーっと流す。
「よし、後は下半身だな」
「……じゃーん、けーん!」
運命のじゃんけん。これでオレが人のままでいられるかが決まる。