第82話 校内組織『美少女を見守る会』
文字数 1,979文字
大宮司亮は、その日のノルマよりも少し多めに受験勉強の課題をこなすと、深夜の針を指した時計を見上げた。
明日は始業式で授業が始まる。謹慎で遅れた勉学は夏休みで追い付いた。
三年生は受験もあるために長期休みの宿題は免除されている。つまる所の、大人になってからの自己責任をこの時期から身につかせるのだ。
「ん?」
その時、充電してるスマホが鳴った。見ると知らない番号。非通知ではないので、親友が女絡みでまた番号を変えたのかと出る。
「もしもし?」
『よぉ、大宮司君。俺だよ』
「――仮屋さん……」
それは、決して無視できない者からの連絡だった。
夏の暑さが尾を引く9月。
静かだった登校路では再び学生で溢れ、教室では久しく再会するクラスメイト達が挨拶を交わす。
リンカも類に及ばす、ヒカリ以外の友達と挨拶を交わし自分の席についた。
「リン、おはよー」
「おはよ、ヒカリ」
ヒカリとリンカは夏休み中も何度か共に出掛けた間柄だが、それでも制服で向かい合うとどこか新鮮だ。
リンカの様子にヒカリは、長年の親友だからこそ何かを感じとる。
「リン、何かをあったの? 何か機嫌良さそうだけど」
休み明けで始まる授業と、気だるく続く暑さを前に機嫌の良い学生など地球上には存在しない。
「そうかな?」
「うん。はぁ……わたしにもソレ分けて~」
ヒカリは暑いのが苦手なのだ。それだけで上がるモノも上がらないのだろう。
「一昨日、花火を見に行ったんだけどさ。急に雨が降ってきてもう最悪よ。折角、最後の休みでパパとママが揃ったってのに」
何かと忙しいヒカリの両親が同時に休めるのは月に一度あるかどうかである。それが通り雨で台無しにされたのだ。
「花火は諦めたの?」
「一応、細々したのを買ってきて河川敷でやったわ」
意思を持つように追いかけてくるネズミ花火から逃げた父は川でこけた。その様子に母と大笑いしたのだった。
「あ……ごめん」
片親のリンカに対してヒカリはいつも気を使って、家族の話題はあまりしなかった。つい、口から出てしまったのである。
「別に気にしてないよ」
と、リンカからは何かを達成したかのような余裕が感じられる。本当に気にしていない様子にヒカリは問い詰める。
「リン、なんかあったの? もしかして、リンのお父さん帰って来たとか?」
「え、違う違う」
「となると……ケン兄の事か!」
にやり、とケンゴの事を指摘されてリンカは目に見えて同様する。顔は少し赤くなり目が泳ぐ。
「ち、違――」
「リーン、それは肯定と同じよ。さぁ聞かせなさい! ケン兄と何があったのかを!」
「ちょっと! 声が大きいって――」
「教えるまで家には帰さないよぉ~」
わきわきとやらしく手を動かすヒカリにリンカは、もー、と一喜一憂する。
リンカとヒカリの席から少し距離のある席では、三人の男子が細々と集まっていた。
他が休みの出来事や宿題の事を話題に集まる中、彼らは全く違う会話をしている。
「お前ら、特別号は買ったか?」
集まった席の主である男子生徒は座ったまま、腕を組んで告げる。
「……もちろん」
「なんとか」
それに二人は応えた。それは彼らだけの暗号の様なモノ。そして、リンカとヒカリをちらっと見る。
「雑誌では日焼けはしてなかったな……」
「それ以上は詮索するなっ!」
「そうだぞ! 見守るのが俺らの
彼らは校内に存在する水面下の組織――“美少女を見守る会”のメンバーである。
会のメンバーは各々の学年、クラスに居る何かと“空気な者たち”で構成され入会はスカウト式。(彼らは同族を見極める能力を有している)
本来なら
ちなみに発足してから10年近くになり、空気な者たちが学校から居なくならない限り、彼らの組織も不滅である。
「買うときめっちゃ緊張したぜ」
「あ、俺も」
「俺は顔バレしたくなかったから、マスクにサングラスで行ったわ」
「逆に覚えられるだろ、それ」
前までのリンカはヒカリのオマケとしか見られて居なかったのだが、急に明るくなり組織の対象になった事で同クラスである三人の重要度も上がって来たのである。
「それと……今日報告会がある。幹部全員が集まるそうだ」
「……行かないとな」
「ああ」
それは長期休み明けにて、クラスの美少女がどのように変わったのかを報告し合う定例行事である。集合場所は他に知られない様に慎重に選定される。
「ほーら、朝礼するぞー。お前ら元の席につけー」
担任の箕輪先生が入ってきて、二人は各々の席に戻った。
彼らはカーストの上層にも下層にも居ない。しかし、彼らはクラスには必ずいる不滅の存在であり、決して認知されることはない。