第278話 前菜と前菜と前菜

文字数 2,411文字

「大丈夫?」
「あぁ。迷惑をかけてしまったな」

 オレはショウコさんと共に部屋を出て、アパートの外廊下で話をしていた。

 新鮮な夜の空気に当たる事で、色々とリセットするのが目的だ。正直、あのまま室内に居たら何とか戻った理性ゲージが再び枯渇するのは必定。換気は絶対に必要だ。

「聞かないのか?」

 オレが先程の添い寝をもやもやして考えていると、ショウコさんが聞いてくる。

「何を?」
「私がどんな悪夢を見ていたのか」

 “夢”ではなく、“悪夢”と言う言葉が一番に出てくるのは常にソレを見るからなのだろう。

「オレはそう言うのは聞かない主義だからさ。ショウコさんにも事情があると思うし、話したくなったらでいいよ」

 オレは廊下の柵から外を見る様にもたれかかる。
 人の抱えるモノを他人が進んで掘り起こすモノじゃない。オレ自身がそうして欲しいと言う事もあるが。

「オレも似たようなモノだからさ」
「何が?」
「言いたくない過去ってヤツがあるんだ」

 まぁ……それは、信頼できる彼女に聞いてもらう事になっている。

「ふむ」

 と、ショウコさんは外柵に背を預ける様に隣へ並んだ。

「実はストーカーの件は心当たりがあるんだ」
「そうなの? でも、昼間は知らないって言ってなかった?」
「あれは……父を安心させるための嘘だ」

 外で話す様な事じゃない。と、ショウコさんは部屋の扉を開ける。

「君には全部話すよ。契約したからな」

 そう言うショウコさんは少し困ったように微笑む。

「無理してない?」
「君には知っていてもらいたい。私の恋人だしな」

 恋人って便利な言葉だなぁ、と思いつつも彼女としては話すきっかけになっているのだろう。

「その前に、先に教えて欲しい事があるんだけど……」
「なんだ?」
「なんで、オレの布団に入ってたの?」
「男女が寝所を共にすると、子供が出来るんだろう?」

 何を言ってるんだす? このヒト。え? 子供?

「えっと……なんで子供?」
「可愛いだろう? 子供」
「まぁ……可愛いけども」
「だから欲しい」
「……ショウコさんは、セッ○スって知ってるよね?」
「ああ。もちろんだ」
「その内容は?」
「勿論知ってるぞ。だが、アレは単なる運動だろう? 基本は子供が出来る事は避けると聞いているが」
「それはそうなんだけどさ……」

 ショウコさんへの性教育はどうなって居るんですか? ご両親の方々……

「入らないのか?」

 その言葉にオレも続いて部屋へ戻る。
 オレは……流雲昌子と言う女性を理解するにはもう少し時間がかかりそうだと思った。

「……君だったから……なんだけどな」





 オレは携帯のアラームで目を覚ます。
 昨晩はショウコさんから過去に起こった事を聞き、オレは彼女が望まない限りは口外しないことを約束した。

「おはよう」
「……おはよう」

 ショウコさんは先に起床していた。眼前に彼女が覗き込む形で存在していたので、一気に意識が覚醒する。

「ショウコさん……」
「なんだ?」
「起きれない……」

 ふむ。と言ってショウコさんは退いてくれた。オレは、ピピピッピピピッと鳴るアラームを止めるとボリボリと頭を搔きながら上半身を起こす。

「朝食は私が用意するから、君は仕事への支度をすると良い」
「ありがとう」

 朝食の準備途中だったのか、ショウコさんはエプロンを着けていた。台所に戻って行く。
 オレは布団を畳んで、ショウコさんの分も押入れに戻し、スーツに着替える。
 いつでも出れる様に鞄をチェックし、問題ない事を確認。朝食の用意に時間をかけなくて良いから、いつもよりも余裕があった。

「できたぞ」

 そう言ってショウコさんが朝食を持ってくる。随分、包丁をトントンしてたけど、何を作ってくれたんだろう?

 コトッ、と目の前に置かれた大皿には芸術的に皿に盛り付けられた玉ねぎのスライスと薄切り大根のサラダ。前菜かな? 朝食にしては本格的だ。

 コトッ、と次に置かれたのは千切りキャベツとポテトとコーンのサラダ。うん。これも前菜かなぁ。

 コトッ、と最後に置かれたのはキュウリとニンジンの野菜スティックだった。前……菜?

「それでは食べようか」

 正面に座るショウコさんは箸を取って両手を合わせる。

「……ショウコさん」
「何だ?」
「メインは?」
「これだが?」

 目の前にあるだろう? なんてリアクションをされても……

「私は菜食主義だ。あんまり肉類は食べない。新鮮な野草でも良いのだが、谷高社長に、文明圏の物を出すように言われてな」

 そりゃ、そうですよ。ショウコさんって仙人か何かなのか? インフラが停止しても平然と山で生活してそう。
 しかし、野菜ばかりだと栄養に偏りが出るよなぁ。

「……油分はどうやって補充してるの?」

 すると、次にコトコトコト、と三つのドレッシングがテーブルに置かれる。

「私のオリジナルだが、消化に良い油を使ってある。味も保証するぞ」
「ちなみにこの野菜はどこから? オレの冷蔵庫には玉ねぎくらいしか入ってなかったと思うんだけど……」

 聞くとショウコさんは立ち上がり、二つあるうちの旅行鞄の一つを開ける。
 中には保冷剤が入っていて低温が保たれている。そこで艶々で新鮮な野菜たちが、こんにちわー、と挨拶してくる。

「材料はこっちで持つから気にしなくて良い。4日分は確保してある」

 そう言って、温度が上がる前に旅行鞄を閉める。なるほどー、鞄を二つ持ち込んだのは、そう言う事だったのかー。

「後で冷蔵庫を借りてもいいか?」
「それは良いけど……何に使うの?」
「予備の保冷剤を今の内に入れておきたい。野菜は鮮度が命だからな」

 ショウコさんはそう言いながら席に戻り、野菜スティックを箸で摘まむと、生でモグモグと食べ始めた。

 そう言えば……セナさんの料理は野菜だけは全部食べてたっけか。

「食べないのか?」
「いただきます」

 悪くは無いんだけど……朝は米かパンが欲しいなぁ。何とか改善案を考えねば。

 ちなみに彼女の用意した野菜ご飯は全部美味しかった。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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