第324話 そうね!
文字数 2,409文字
学年主任の言葉で研修施設の会議館は賑わい始めた。
リンカの高校は球技大会が無いかわりに文化祭の日程が四日あるのだ。
一日目は校内の生徒のみで行い、二日目と三日目は一般公開で、四日目は生徒内で残り物を消費し店仕舞いや片付けを行う。
1年生にとっては初めての文化祭。色々な取り決めを前もって話し合うのは毎年の恒例となっている。
「それではっ! 皆の意見を聞きましょう!」
リンカのグループはリーダー気質の水間が指揮を取っていた。
「そうねー。やっぱり飲食系が良いんじゃない?」
ヒカリが手を上げて最初の意見を出す。
「そうね! それで行きましょうか!」
え? 終わり? と場の面々は立ち上がり、担任の箕輪へ向かおうとする水間を引き留める。
「ちょっと短絡的過ぎない? 細部を詰めましょうよ。細部を」
「甘いわ、谷高さん! 今回の話し合いは本決まりではないのよ! クラス全体じゃなくて、グループ事で話し合っているのがその証拠ね!」
「で、でも……他にも具体的な案は上げた方が良いかも……」
気弱な徳道も恐る恐る手を上げて意見すると、水間の獲物を見る視線が動く。
徳道は、ひんっ!? と隣のリンカの影に隠れた。リンカは苦笑いしながら、
「時間は沢山あるし、徳道さんの言う通り、もう少し話し合ってみようよ」
「鮫島さんもそう言うのね……わかったわ! 私は浅はかな自分を恥じる! 存分に語り合いましょう!」
水間さんって声の消費カロリー凄そうだなぁ。これが水泳部の肺活量かぁ。
「よくよく考えれば飲食って他と被るかしら?」
「被らないのは無理じゃない?」
「そうねっ! ストレートに飲食にゴールするよりも、他のモノを先に上げてみるのはどうかしら!」
取りあえず飲食系は禁止で。と言う事でグループは改めて案を出す。
「私はコスプレ店ね」
ヒカリは洋服を貸し借りする事を軸に置いた模擬店を提案する。
「普段は着ない人でも、お祭り効果でそれなりに需要があるかもしれないし」
ヒカリの提案にリンカは夏祭りで大暴れした仮面ラ○ダーorクモ男を思い出す。
アレもお祭り効果……かな? いや……多分彼なら必要であれば関係なしに変身するだろう。
「ちなみにコスチュームとかはどっから調達するの?」
「そこは細部を詰める時に考えるわよ。アテは無くはないから」
話が進んだ時のプランは一応あるらしい。
「なるほど……コスプレ店と……」
水間は丁寧にメモを取る。
「次! 徳道さん良いかしら!?」
「え! ええっと……貸し本屋さん……」
徳道は自分が一番身近に置いている物を文化祭で目立たせられないか告げる。
しかし、ヒカリの後の提案に些か地味だったと思い、恥ずかしがった。
「いいんじゃない?」
「そうね。漫画とかも置いて、飲み物とかも用意するのは?」
「時間制限を決めればいい感じ回るわね!」
リンカが少し擁護し、徳道の案は悪くないモノとして場に溶ける。
「なるほど……貸し本屋さん……と」
「“さん”はつけなくても……いいかなぁ」
「OKよ! 次! 鮫島さん!」
「うーん。他に意外なのはあんまり思い付かないなぁ」
文化祭の出し物は多くと被るだろう。そこで差別化する方法は人生経験の浅い自分には思い付かない。
「なら、最後の手段を使うしか無いわね!」
最後の手段? と三人は水間を見る。
「過去にどんな出し物があったか先生を喚びましょう!」
「文化祭の出し物か? 毎年、飲食系が多いな」
様子を見ながら会議室を歩いている担当の箕輪を呼び止めて四人は意見を求めた。
「やっぱり鉄板なんですね」
「と、言うよりも楽だからな」
箕輪は飲食系の優位点を語る。
「冷凍物を暖めるだけで良いし、手間も人員もそんなに多くなくて良い。アルバイトの接客みたいにミスして大きな被害が出る事もないからな」
文化祭の客は基本的に本校の生徒かその身内。不躾な他人が入る事は無いと言う。
「他のクラスの出し物にも回れるし、飲食系は文化祭の花形だ。多少はかぶっててもお客さんはそこそこ入るよ」
出店する場所にもよるが、飲食系はハズれる事は無いらしい。
「劇とかダンスとかの出し物系は無く無いが、準備に時間を取られる上に部活の方でもそう言うのをやる所が多い。部活動の出し物を考慮すると、クラスの方は店系が助かる場合が多いな」
クラスも劇で部活も劇だったら大変なクラスメイトもいるとのこと。
「まぁ、先生が言うのは一例だからな。やりたいことをやればいい。自分達で考えて、自分達の納得する事をやるのが一番だ。先生達はそれを全力で補佐する」
「ありがとうございましたー」
箕輪からそれなりの意見を貰った四人は改めて話の方向性を固める。
「よし! 箕輪先生もああ言ってたし! 飲食系にしましょう!」
「それが良さそうね」
「じゃあ、さっき出た案を合わせてみる?」
「コスプレ……本屋さん?」
先ほど、ヒカリと徳道が出した案が軸になるだろう。
「そうね……コスプレ猫耳本屋さんと言うのはどうかしらっ!」
「猫耳はどっから出てきたのよ?」
「谷高さん。好きじゃないの? 猫」
「いや、好きだけどさ……」
「猫耳……」
リンカにとって猫耳はトラブルの経験しか無い。
「やりたい事と好きな事を足せば楽しい事間違い無し! 私は断言するわ! 猫はあらゆる問題を解決する!」
そうかなぁ。と一瞬、思ったが、彼と最初にキスをしたときは
「……あながち間違いじゃないかも」
そんなこんなで、リンカ達のグループは『コスプレ猫耳本屋さん』と言うちょっと趣旨のわからないモノを提出した。それに対して箕輪は、
「はっはっは。面白そうだな。ちなみに猫耳は先生も乗せなきゃダメか?」
「ダメに決まってますよ!」
「はっはっは。巻き込んで行くねぇ!」
と、笑っていた。