第442話 アバラ三本

文字数 2,522文字

 熊狩りのローラー作戦は初日は空振りに終わり、2日目からジョージの猟銃は火を吹いた。
 川辺で2メートル近い巨熊を先に見つけ、射線を確認しつつ発砲。先制攻撃の一射は頭部に命中する。
 しかし、角度が悪かったのか頭蓋骨に弾かれて致命傷にはならない。熊はジョージを見ると狂った様に突進して来た。
 ジョージは二発目を構えるが、撃つ前に別の銃声が響き、側面から熊の心臓は撃ち抜かれる。

「ガ……ガァ……」

 熊は撃ち抜かれた後もしばらく前進していたが、伏すように舌を出し絶命する。確実な死を確認したジョージは銃の構えを解いた。

「『アバラ三本』か。走るヤツの心臓抜くたぁ、腕を上げたなロク」
「障害物の隙間を抜いて、頭に当てるジョーの方が凄いよ」

 横からロクも茂みから、がさがさと出てくる。銃声を聞き付けて、他の銃士達と伝令役の天月も集まってきた。

「げぇ。マジ物のモンスターじゃないですか!」
「まったくじゃ! どこで何食ったらこんなに成長するじゃ!」
「ジョー、熊吉か?」
「コイツは違う」

 今仕留めた熊は両目がある。それに、熊吉はこんなに小さく(・・・)は無かった。

「二日で1か」
「全部で何頭おるんじゃっけか?」
「確認する限りは6から8だ。しかも、コイツを見ろ」

 倒した熊は相当痩せている。既に冬眠の時期に入ると言うのに何も蓄えていない。

「コイツら、見たものを全部食らう勢いだ」

 目に見えるだけでも山菜は豊富に存在する。しかし、ソレに手をつけずに徘徊している所を見ると――

「熊吉が熊どもに食事制限をかけてやがる。何がなんでもこっちを殲滅するつもりだ」

 野生動物は手負いと空腹時が最も危険な状態だ。特に空腹の時は死に物狂いで突撃してくるだろう。

「今日は一旦、引き上げるぞ。仕留めたコイツをバラして運べ。熊鍋にして全員で食う」

 仕留めたら命を無駄にしないのは彼らの心得だ。まだ日は高いが未だにこの1頭しか姿を見ない。慎重に動くに越したことは無いだろう。

「ジョー、相手は所詮は熊だ。複雑な作戦を練る事は出来ないよ」
「……作戦じゃないかもな」
「え?」
「まぁ、飯時にでも話す。新次郎、山を下って銃蔵と公民館に1頭仕留めたと先に伝えに行け。後、帰りに解体の道具も持てるだけ持ってきてくれ」
「わかりました」

 ジョーの指示を受けて天月は一人で先に下る。他の面子は解体を始め、血と内蔵を手際よく処理を開始。ジョージとロクは周囲を警戒する。

「罠もかかっとらんな」
「意図的に避けてるのか……それともここには近づいていないのか」
「……ロク、周囲の警戒を続けろ。ワシは痕跡が無いか少し深くまで行く」
「わかった。気をつけてな」

 ジョージは猟銃を背負うと後の事は皆に任せて茂みの奥へ入って行った。





「ジジィ」
「どうした?」

 公民館で食料の確認をしていた七海は約一週間も過ごすにしては足りない事に気がつく。

「食材が全然足りねぇぞ? 前線のジイさん達と婦人方の分を視野に入れても二日くらいしかねぇ。特に蓮斗のヤツがめっちゃ食いやがる」
「それは問題ないぞ。仕留めたヤツを食うからな」

 今回は相手が野生動物である為に仕留めたソレを食卓に並べる予定だった。

「ジョーの話だと6頭は固い。全部仕留めて全部食う。余すことなく処理できるルートがあるからな」
「昔ながらってヤツか」

 古くからこう言うことも生業にしているらしい。里に独自の銃蔵なんかもあるくらいだ。その辺りは慣れたモノなのだろう。

「熊胆なんて今でも結構な値で売れるからな。肉は当然ながら、骨も利用できるし、毛皮もデカイ物は欲しがるヤツが海外にもいる」

 その時、銃声が間を置いて二発目響く。二日目でようやく事態が動いたらしい。

「二発目か。多分、ジョーとロクだな」
「リアルな銃声って結構響くんだな」
「ガハハ。日本に居れば馴染みはねぇよな。ここだと、ちょいちょい聞こえるぜ?」
「車での進入が制限される理由が良くわかったよ」

 きちんと管理しているとはいえ、銃を平然と置いてる里だ。その辺りでのトラブルを避ける為に車両を制限しているのだろう。

「ゲン」
「おお、どうした?」

 話をしているとトキが現れた。

「テレビで面白いモンが何もねぇ。ちと、母屋に行ってラジオと秘蔵CDでも取ってくるわ」
「そういや、お前はあのCDを二枚とも持ってたな。それで、なんで俺に声をかけた?」
「そのデカイ図体を有効活用せな。護衛を頼むで」
「……お前一人でも包丁さえあれば熊吉殺れるだろ……」
「か弱いレディになんて事を言いよるか」
「それなら俺が取ってくるよ、婆ちゃん」

 わざわざ、ご老体が行くほどでもない。七海はひとっ走りして取りに行く旨を告げる。

「ええんか? ケイちゃん」
「問題ないぜ。動き回るのは若いヤツでやるよ。体を動かしてぇし、暇だし」

 七海は明日は自分も一緒に山へ入れないかジョージに提案するつもりだった。

 ちなみに、アヤとハジメとシズカは楽しく談笑し、蓮斗はぐーすか寝ている。ヨミは本を読み、ユウヒとコエは宿題をやっていた。

「筋トレばっかりしてるジジィとは大違いじゃな」
「うるせぇ」
「ラジオとCDはどこに置いてあるんだ?」
「あたし、わかるわよ」

 そこへ、腰に手を当てたユウヒが現れる。

「宿題は終わったのか?」
「終わったよ」

 コエも暇そうにやってきて、何かしらのイベントを探しているようだった。

「あたし達は、ばぁ様の母屋には何度も行ってるからね」
「CDも何度も聴いたけど、あれは本当に良い歌だよ」
「ケイ一人だと、何も持ち帰れずに帰ってくるのがオチよ」
「ほー、言うじゃねぇか、ちんちくりん」
「もー! ちんちくりんって言うの止めてよ!」
「俺に勝ってから言うんだな」

 七海がそう言って、うーうー言うのユウヒの頭を撫でる構図はデフォルトになりつつある。

「ちなみにユウヒ、どこにCDがあるか覚えてる?」
「前に聴かせてもらったときに、ばぁ様はタンスに直してたわ」
「え? 私は居間の本棚の横に立ててあるのを見たけど」

 双子の記憶が食い違う。他にも候補が何ヵ所か浮かんだ。

「おいおい。しっかりしろよ、お前ら」
「ほっほ。なら三人に頼もうかのぅ。秘蔵CDとラジオを無事にゲットして来てくれや」

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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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