第484話 レザーフェイス×4

文字数 2,393文字

 次は母屋へ向かう事にした。何故なら、母屋方面からなら、オレにも馴染み深い場所へ行くことが出来るからだ。
 昔はよく竜二やシズカにもオレが知ったスポットに連れて行ったルートは良く覚えているので、そこへ向かうための初期アクセスである。
 しかし正直な所、デートをしようと言った手前、オレ自身にその経験があるワケではない。
 リンカとの夏祭り? あれはただ夏祭りに一緒に行っただけでしょ? 昔は良く引率したよ?

「ケンゴ様、興味本位の質問を宜しいでしょうか?」
「あ、どうぞどうぞ」

 トークをするのもデートの醍醐味、だと思う。イケメンなら楽しませる事に余念が無いんだろうなぁ。

「この様な経験が豊富なのですね。実に落ち着きなさっておいでです」
「いや、初めてだよ?」
「そうなのですか?」
「お恥ずかしながら。この歳で彼女なんて居たことが無いので」

 里に居た頃はいつも下の子供達の世話。里を出てからは、リンカやヒカリちゃんにダイキを気にかけつつ、会社では鬼灯先輩に癒されて、同僚や上司の人達と揉まれる日々だ。

「それでは、私が初めてのお相手ですね」
「原始的な事ばかりになると思うけど、嫌なら嫌って言ってね」
「申しません。ケンゴ様の育った、見てきた環境を私も体験しとうございます」

 ホントにええ子じゃ~。て言うか、オレの方が気を使われては本末転倒なのでは?
 すると、ゴロゴロと目の前から荷車の車輪が回る音が聞こえた。





「血の臭いですね」
「む……あ、あれは!」

 オレは目の前から来る荷車を四人で押す老婆集団に目をやる。
 全員が何一つ笑ってない眼。血で汚れたエプロン。腰には各々が解体道具を持ち、一仕事を終えた様子が伺える。荷車に乗せた熊の死体は、皮を剥いであり、産まれた時の姿よりもすっぽんぽんだ。

 凄い気迫だ。まるで戦地から帰ったナイチンゲールの集団。運ぶ獲物が人ではなく、熊である事が唯一の“救い”……か。

「おおう。皆、停止」

 先頭を押している一人がオレらを見つけて停止を促す。荷車が止まる傾かない様に高さを調整してロックするまで完璧だ。

「どうした?」
「ケン坊じゃ」
「おお、ケン坊」
「アヤもおるぞ」
「どーも」
「お疲れ様です、お婆様方」

 オレとアヤさんの姿を見て、にこやかに笑うこの婆さんs'は銃士爺さんs'の奥方達である。
 普段の仕事はバスに乗って、里を出てすぐ近くにある食肉工場で働いている。オレが里に来たときから解体業をやっているらしい。

 噂では……ジジィが仕事で仕留めた“身元を公に出来ない死体”を内々に処理する役回りだったとかと言うある婆さんs'なのだ。噂であって欲しいものである。

「二人で、でぇと、か」
「ええぞ、ええぞ。ポココンと曾孫を頼む。五人くらいな」
「金銭的な世話が出来んでも里で育てるでな。愛があれば避妊はせんでええぞ」
「無責任に逃げるようなマネをしたら取っ捕まえて工場で吊るす事になるがのぅ」

 息を吐く様にそう言う言葉が出てくるんだよなぁ。少し属性が弱めのばっ様がそこらをほつき歩いているのが『神ノ木の里』です。

 やっぱり、この里おかしいわ。だって常にレザーフェイスやブーギーマンの能力持った人達がふらふらしてんだもん。

「若い者を見るとこっちもテンションが上がるわい」
「特に蓮斗な。アレは新しい風じゃな」
「うむ。ハジメもええ子じゃ」
「外で会社をやっとるらしいぞ。こっちに移店せんかのぅ」

 さりげなく狙われ始めてるな、あの二人。

「それよりも、熊はさっさと運んだ方がいいんじゃない? 腐るよ?」
「夜にロクが防腐処理してくれててな」
「まだ大丈夫じゃ」
「それよりも曾孫の名前は里の投票で決めようや」
「ワシは花子に一票入れるぞい」

 やべ、矛先がこっちに向き直った。
 さっさと行かないと曾孫の名前が花子にされてしまうので、はいはい花子花子、と言いつつアヤさんの手を引いて脇を抜ける。

「なんじゃ、素っ気ない」
「都会で冷たい血でも輸血されたか」
「アヤよ、もしDVされたらワシらに言うんじゃぞ」
「市中引きずり回しの刑に処すでな」
「ふふ。その時は頼らせて貰います」

 まーたーのー、とエンカウントしたレザーフェイス(老婆タイプ)×4と入れ違い、母屋への道を再度進む。

「まぁ、ああ言う手合いが多いのがこの里だからね」

 オレは手を離すと、えっこらえっこら、と荷車を押していく様子を振り返る。

「丁寧に毛皮は剥ぎ取られておられました」

 と、アヤさんは荷車に積まれた熊の死体を見てオレとは違うモノを感じ取った様だった。

「生命の死を尊重している証です。骨一つも無駄にしないと言う意思を感じました」

 オレは昔から解体作業と解体後の死体を見ていた事もあってアヤさんほど、細かくは感じ取れなかった。
 だって、剥ぎ取ったキン○マとか見せて来るんだよ? 普通にそんな風に思うの無理っしょ。

「多分、夜は熊肉パーティーだよ。公民館で鉄板用意して皆で焼くんだ」
「まぁ、とても楽しみです」

 キ○タマの事でアヤさんを幻滅させない様に話題を夕飯へさりげなくシフト。その時、二回の銃声が山から響く。

「――二発か」
「大丈夫でしょうか?」

 アヤさんが心配するのは無理はない。

「大丈夫だよ。多分、罠に引っ掛かったヤツを仕留めたんだと思う」

 熊吉の統制が失われた今、残っている熊達は山を去るか、そこにある実を求めて罠に掛かったのだろう。
 まぁ、全員腹ペコみたいだったので後者だと思う。

「ロクじぃたちもプロだからね。あっちは問題ないよ」

 各々でやることをやれば里は元に戻る。
 オレがやることはアヤさんとデートだけどな!





 銃声と死体。その二つのキーワードに記憶を揺さぶられる者が里にいた。

「……私はとても愚かです。御母様」

 彼女は誰にも聞こえない様に呟くと、沸き上がった“後悔”を再び心の奥へと沈める。
 そして、ケンゴの後に続いた。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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