第502話 23年前 その血に連なる

文字数 2,252文字

「船に動きが無いですね」
「そうだな」

 『ガルート号』は『WATER DROP号』に接触したまま、速度を合わせて並走している。
 船の制御はさほど難しい事ではない。
 問題は先ほど起こった霧の方だ。近いうちに積乱雲の発生を危惧して緊張感は持ち続ける必要がある。

「暗闇では捜索も簡単では無いだろう。何かしらの情報を持ち帰って欲しいものだが……」
「第二チームも『WATER DROP号』へ向かわせますか?」
「いや……先にあちらの状況を確認する」

 マッケランは無線を手に取るとジョージの周波数に合わせて会話を――

「――――これはマズいな」

 しようとした時、気圧計の数値が少しずつ動いている状況に気がついた。





「……これって……どういう事だ? 細菌兵器?」

 航海日誌を読み終えて、マーカスの口から最初に出た感想はソレだった。

「つまり……『WATER DROP号』はその実験場と言う事か?」

 フェインは自分達はとんでもない場所に足を踏み入れていると考え背筋が冷える。

「一度発症すれば、完治しても再び発症する……そう言う症状を引き起こす病気が無いワケではないけれど……」

 ステラは航海日誌から読み取れる、病の情報からこの閉鎖された空間では、感染を逃れる事も完全に滅菌する事も不可能だったと悟る。

「このドクターと言う人物は感染をしなかったのか?」

 ジョイスは、日誌に出てくる最も感染者の近くで対応に当たった“ドクター”と言う人物に興味を示す。

「“ドクター”はワシの息子だ」

 ジョージは確信を持ってその事を口にする。その場の全員が彼を見た。

「それに、ここは実験場ではない。恐らくは、乗客に紛れて細菌兵器を運んでいる最中だったのだろう」

 もし、最初から実験に使う予定ならば、事故が起こる前から何らかの異常が出ていたハズだ。
 しかし、日誌を読む限り、症状が現れたのは事故の状況が安定してからだった。下手をすれば首謀者も帰れなく可能性を考えれば、兵器を使用する事はリスクでしかない。

「世界各国を回る客船だ。船で運ぶよりもずっと警備は手薄で、発見されるリスクも少なくて済む」

 その時、ジョージの無線に連絡が入る。

『聞こえるか、ジョージ』

 相手はマッケランだった。即座に応答した。

「聞こえてるぞ」
『生存者は居たか?』
「いや……まだだ。航海日誌を見つけた」
『そうか。だが、内容に関してはこっちに戻ってきてから聞かせてくれ』
「どうした?」
『気圧計が異常数値を示し始めた。間も無く、積乱雲が上空に発生する。しかも、規模は相当デカイ。すぐに『WATER DROP号』を離れなければならない』
「…………わかった」

 無線は通信を終えて沈黙する。

「嵐が来る。お前達は先に船に戻れ」
「ジョージさんは?」
「ワシは息子の客室へ行く。何かあるかもしれん」

 もし、“ドクター”が生きていれば間違いなく助けを求めるだろう。しかし、『WATER DROP号』には完全に人の気配が消えている。
 つまり、彼はもう生きては居らず、ジョージは何かしらの遺品を取りに向かう事にしたのだと皆は察する。

「オレも行きますよ」
「私も同行します。もし、誰か生きてたら助けられるかも」
「人手があれば出来ることが増えますよ」
「右に同じ」

 各々の申し出にジョージは嬉しく思ったが、自分の我儘で四人を危険に晒す気はなかった。

「いや、これはワシの私情だ。お前達は先に『ガルート号』へ戻れ」
「しかし……」
「それに……既に沈静化しているとは言え、細菌兵器の場に居るのだ。何か起こる前に『WATER DROP号』を離れた方が良い」

 そこまで言われては面々は離れること第一に考えるしかない。

「なに、部屋番号はわかっている。そう時間はかからん」

 ジョージは航海日誌をマーカスに手渡す。

「マッケランに届けろ。絶対にな」
「わかりました」

 それだけを言い残し、ジョージはブリッジを後にすると客室の区画へ向かった。





「将平。もう行くのか?」
「ああ。アキラから仕事中も何度も連絡が来てな。育児は楽しいが、やっぱり家族三人で居たいって」
「そうか」
「親父は毎回、オレとアキラが里を出ていく時は寂しそうな顔をするよな」
「……アイツも連れて行くのか? まだ三つだぞ?」
「色々なモノ見せてあげたいんだ。親父やオレみたいな分かりにくい性格に成長すると将来苦労しそうだからな」
「生意気だぞ」
「ハハ。オレにとって、親父は昔からしかめっ面で、怖いイメージが強かったんだ。けど、そうじゃないってわかった」
「……そうか。よく面と向かって告白できたな。褒めてやるよ」
「アキラのおかげだ。アイツは何に対しても全力で感情を表に出す。暗い雰囲気が嫌いだとか言ってな。……なぁ、親父」
「なんだ?」
「親父は、お袋が先に逝ったらどうする?」
「無い」
「え?」
「トキが死ぬ時、どんなに健康でもワシは程なくして逝くだろう。お前や楓には頼り、頼られる家族がいる事だしな」
「――じゃあ、オレは間違いなく父さんの息子だ」





「……馬鹿モンが」

 ジョージは義娘(アキラ)が死んだと知った時から、どんなに無事でも息子は共に逝ったとわかっていた。
 故に確かめなければならない。
 二人の最も大切なモノは一体どうなったのかを。

 船内の見取り図は至る所にあり、暗くとも客室への区画へ入るにはさほど時間はかからない。しかし、ジョージの足は客室から更に下、機関室へと向かう。

「……ここか」

 それは船内の電源を入れるブレーカー。幾度と受けた落雷で落ちているが、再びレバーを上げると、船内に光が灯る。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み