第404話 魔女の腹

文字数 2,028文字

 目の前にある木製の扉。
 『スイレンの雑貨店』はお洒落なアンティークショップと言う感じで、来る人を選ぶものの、好きな人には刺さりそうな雰囲気を外からでも感じる。

「…………」
「…………」
「ん? どうしたの? 二人とも」

 なんか、リンカとショウコさんが妙に警戒している様だ。カレンさんは店を見上げて、魔女でも住んでんのかねぇ、と口にする。

「……ケンゴさんは何も感じないのか?」
「相変わらずだ……」
「?」

 ショウコさんは初めての来店で、リンカに関しては二度。セナさんの誕生日プレゼントをここで用意して貰ったとか前に言ってた。

「ユニコーン?」

 扉の前で尻込みする二人に気を使っていると、近くの電柱の影に隠れた(隠れきれてない)ユニコ君が覗くような姿勢で、警告するように鳴き声を放ってくる。
 夢に出るレベルの光景。普通に恐怖絵面なので止めてもらいたい。

「とにかく入ろうよ」

 そう言ってオレはドアノブに手を掛けると後ろに引く。

「――? 珍しいな」

 扉は外開きではなく内開きだった。中へ押す形で開くと、カランカラン、と言う扉鐘の音と共に店内へ入る。

「ほほう……」

 店内に入り、オレは素直に感嘆した。
 木製の床に天井。木造のロッジの様な壁は丸太を並べて作られており、そう言うのが好きな人には堪らない内装だ。
 商品を置く棚も全て木製。会計をするカウンターにもそれなりのアンティーク商品が並べられ、店主のこだわりを感じる。
 何て言うか、ハリー・○ッターの杖売ってる店みたいな感じ。

「……あんまり、うろうろして商品を落とすなよ」

 オレの次に店に入ってくるリンカが助言をくれる。
 店の商品は統一感が無い並べ方をしているので、確かにその警戒は必要かもしれない。

「値札は無いけど高そうな物ばかりだからね。気をつけるよ」
「……ふむ」

 ショウコさんは店内に入ってから何かを警戒する様にキョロキョロしている。

「どうかしたの? キョウコさん」
「……誰かに見られてる様な気がして落ち着かないな」
「監視カメラは無さそうだけどね」

 サマーちゃんの話ではこの店はユニコ君が現れる前から存在している程に商店街の中でも古い店であるらしい。しかし、内装は幾度とリフォームされているのか、真新しさと清潔感を感じる。

「こう言う店に入るのは初めてだわ」

 カレンさんは物珍しげに商品を眺めて純粋に楽しんでいた。

「店員が見当たらないな……」
「ホントだ。まさか、今日って定休日だったりしたかなぁ」
「まぁ、それなら扉がそもそも開かないでしょ」

 大人面子で会話をする横でリンカは店の奥をじっと見ていた。
 そんな彼女の様子が気になったが、取りあえず店員さんを呼ぶ為の手段を探す。
 カウンターに呼び鈴は無し。人の気配はオレら以外には何も感じない。昼休憩中かな? すみませーん、と声を出しても店の中に飲み込まれた様に反応は無い。

「リンカちゃん」
「……なんだ?」
「ここに来たことありそうだけど、店の人ってどんな人なの?」
「……魔女」
「え?」
“イッヒッヒ”
「「!?」」

 急に反響した声が店内に響き、リンカとショウコさんが反応する。そして、閉まった扉が、カチリ、と音を立てて鍵がかかった。ハイテクぅ。

“どうやら……籠の中に沢山の獲物が入った様だねぇ。イッヒッヒ”

 声が四方から聞こえるな。シャ○がアム○とアクシズで撃ち合った時はこんな感じだったのかもしれん。

「すみませーん。見てるなら出てきてくれませんかー?」

 正直、結構好きな演出ではあるが、これは軽い監禁に当たるのでせめて表の扉の鍵は解除して欲しい。

“イッヒッヒ――どうやら……籠の中に沢山の獲物が入った様だねぇ”

 あ、これ録音だわ。何がトリガーで発動したのかは知らないけど、来客を知らせるベルみたいな感じかな。

「相変わらずか……」
「……」
「人を選びそうな店だねぇ」
「すみませ――」
「いらっしゃい。イッヒッヒ」
「「「「!!!!?」」」」

 店の奥へ注視していたオレらは背後からの声に全員が驚く。いつの間にか腰を折った老婆が背後に存在していたからである。
 マジで、魔女だ。帽子をかぶってデカい鍋に入った謎の液体を掛け混ぜて居ても違和感の欠片もない老魔女が目の前にいる。ファンタジーの住人だろこの人。

「お婆さん……」
「イッヒッヒ。来ると思ってたよ」
「誘われたか……」
「イッヒッヒ」

 驚きからいち早く立ち直ったのはリンカだった。一度、老婆との接触を経験をしているだけ状況理解の早さに差が出るなぁ。
 ちなみにオレらの後ろは外に面した扉しかなく、隠れる場所など存在しない。
 鍵もかかったハズで扉鐘も鳴ってないので、一体どうやって背後に現れたのだろうか……

「お嬢ちゃん。“アレ”を取り戻しに来たんだろう? イッヒッヒ」
「……」

 この得体の知れない老婆とリンカは因縁があるらしい。セナさんの誕プレを用意する際に一体何があったのか……

「イッヒッヒ」

 意図の掴めない笑い方。止めて貰えませんかねぇ……
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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