第445話 母屋へ駆けい!!!

文字数 2,264文字

「って事で1頭は仕留めて、今解体してるところです」

 解体道具をロク達に届けて、公民館へも報告に来た天月は走りっぱなしにも関わらず息一つ上がっていなかった。

「わざわざ走らんでも、電話でええやろ」

 対応するトキは面倒な事をするのぅ、と天月に告げる。

「そんな勿体ない。一秒でも多くケイさんと一緒に居たいと思うのは全人類共通事項ですよ!」
「うっはっは。お前の中の人類は戦争なんぞしなさそうじゃな」
「恐縮です。所で、ケイさんは?」
「チビ二人と母屋へ娯楽品を取りに行っとる」
「なんと! 俺の援護が要りますね!」
「じっ様の指示(ミッション)はええんか?」
「取りあえず、役目は果たしましたからね。次はケイさんが昼食を作る手伝いをするのが俺のミッションです!」

 それじゃ! と走り出す天月にトキは公民館の納屋で蓮斗が見つけた刀を投げて渡す。

「そいつを母屋の傘立てに置いといてくれや。ここにあると蓮斗やチビ達が持ち出さんとも限らんでな。後、秘蔵のタレ持ってきてくれ。台所の床下収納に入っとる」

 了解です! と天月は走って行った。





 物事は急転直下で動く。
 決断と動きが遅ければ遅いほど、事態は悪化し、最悪の結末へと近づいていく。
 大半の人間は籠城を選択をするか、幼子を残して動ける大人だけで助けを呼びに行く形を取る。

 しかし、七海はユウヒが即座に襲われた状況から、熊は人間に対して平然と襲いかかると即座に認識。彼女達を残しておく選択は絶対に取れないと結論を出した。
 そして、飛龍が熊を牽制している事から、まだ動ける手札がある内に突破する選択する。

「……」

 戸に手を掛けつつ、七海は本当にこの選択が正しいのか今一度考える。
 沢山の可能性と起こり得る未来をいくつもシュミレートしろ。何よりも優先する事は――

 七海は後ろ眼で開ける戸を待つユウヒとコエを見る。二人を無事に逃がす事だ。

「行くぞ、お前ら!」

 七海は戸を開けると外へ出る。





 熊吉と熊を母屋へ向かわせない様に飛龍は動き回っていた。
 二頭は飛龍を無視しようとするも、注意を引く様な挑発的な動きは、空腹も相まって苛立ちに変わり、一番に排除するモノとして認識する。
 しかし、飛龍にも体力には限界がある。常に動き回り、あらゆる攻撃が即死となる巨熊二頭からの(プレッシャー)はいつもよりも体力の消耗は激しい。

“お前達、今日から家族になるユウヒとコエだ。護ってやれ”

「グルガァァ!!」
「ガウ! ガァウ!!」

 飛龍が命を賭して動くのは主からの命令だけではない。

“じぃ様! 飛龍のブラッシングわたしにさせて!”
“ユウヒは本当に飛龍好きだよね”

 里でも最も尊き命を、家族を護る為に命をかけるのは当然の事だ。
 その時、母屋の戸が開く。





 チャンスは一瞬。僅かな躊躇いも命に直結する。
 逃走経路を塞ぐような位置に居た二頭の熊は、飛龍を追う形で場所を移動していた為に道は開けていた。

「よし! 行くぞ!」

 七海は先に出て熊の注意を自分に向けさせる。その後ろを二人に通過させる流れだ。

 マジか。飛龍のヤツ、二匹相手に善戦してやがったか!

 生物は闘争本能によって優劣が決まる。体格も数も勝る二頭の熊相手に、全く怯むことなく動く飛龍を七海は戦力に数える。
 すると、現れた七海を見た熊は飛龍を無視してそちらへ突進する。

「来るのはわかってるぜ!」

 七海は小麦粉の袋を突進してくる熊の鼻先にぶつけて中身を顔面に浴びせた。

「ブフォ!?」

 顔にかかる異物に眼と鼻を塞がれた熊は思わず停止して、腕で顔を払う作業を優先する。

「良いぞ! 来い!」

 七海は熊から眼を離さずに経路を確保しつつ母屋に待機させたユウヒとコエを呼ぶ。

「行くよ! コエ!」
「うん!」

 ユウヒはコエの手を握り七海と飛龍の作った退路を抜ける為に走り出す。

「お前らはそのまま道を下れ! 振り返らずに公民館に――」
「ゴガァァァ!!」

 その時、熊吉が吼えた。それは、先程からもたついている熊に対する叱責か叱咤か。
 だが、その“吼え”はコエの補聴器に一瞬だけ支障を与えた。

「っ……あっ」

 キィィィィィ――と言う補聴器の不協和音に驚いたコエは足がもつれてしまい、思わず転んでしまった。その際に補聴器が耳から外れる。

「コエ!」

 コエが体勢を崩した事でユウヒその手を離してしまった。七海の背後に来た時点で振り返り、再び妹の手を取ろうと――

「ユウヒ!!」

 して、七海に抱えられてその場を脱した。
 熊吉の吼えにより、獰猛さを増した熊が、眼が見えずとも叫ぶ声を頼りに七海とユウヒに襲いかかったのである。

「お姉ちゃん……」

 コエは音が消えた。どうして良いかわからずにその場に停止する。

「コエ! 母屋に入れ! コエ!!」
「コエ! コエ!」

 七海はユウヒを抱えて熊から距離を取らざる得ない。二人はコエに対して言葉を放つが彼女には殆んど聞こえなかった。

 そして、小麦粉から視界を取り戻した熊は顔を振るとその視線には母屋の前で座り込むコエの姿が――

「ゴガァァァ!!」
「ガゥゥゥ!!」

 飛龍も熊吉から眼を離すことは出来ない。

「くっ――」

 七海は高速で思考を巡らせる。
 どうする……どうすればいい!!
 全員が助かる為には圧倒的に手数が足りない。しかし、何よりも優先するのはユウヒとコエの安否だ。
 何よりも二人を逃がす。その覚悟を決めようとしたその時だった。

「コエ!!! 母屋へ駆けい!!!」

 側面の山から場を震動させる程の豪声が響く。

「じいさん!」
「じぃ様!」

 ジョージは猟銃を構えつつ山の傾斜を滑り降り、標準をコエの前に立つ熊に定めていた。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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