第310話 ジジィの嫌がらせ正拳

文字数 2,062文字

 サマーは決断を迫られていた。
 場を全て把握しているのは自分だけだ。全体を見て最も最適な選択をしなければ誰かが取り残される。

「やはり……女郎花教理。ヤツは格が違い過ぎるか」

 作戦は危なげなくとも繋がっていた。そして、終わる寸前でヤツに捕まったのが最大の不運だった。
 どうする……今、フルアーマーを寄せれば他の敵を呼び寄せる。くっ……どうすれば――

『サマーちゃん。頼みがある――』

 ケンゴからの提案にサマーは一度眼を見開くと思わず笑った。

「本気か。そんなモノで女郎花教理を何とか出来るなど……」
『ジジィ直伝だよ。オレも鈍ってるから上手く行くかはわからない。だから後は君次第だ』
「『Mk-VI』の調整は任せよ!」

 スペックを限界まで引き出す。それが出来るのはわしだけじゃ――





 女郎花教理は『流雲武伝』をもってしても、服に刃をかすらせるだけで精一杯だった。
 彼が驚いたのは最初だけだ。違う呼吸で繰り出す刃はすぐに見切られて行く。
 これ以上は私も先が無い。ここが限界値であり、それを遥かに先に行く女郎花教理へ刃は届かない――

「――」

 青竜刀の側面に手の甲を合わせられた。
 そんな事が人に可能なのか? そう思った瞬間、仮面を掴まれる。

「君を連れて行く」

 咄嗟に顔を引くが仮面は外れてしまった。
 その瞬間、青竜刀が重く感じ、足の動きも鈍くなる。先ほどまでの羽根のように軽かった身体は夢から覚めた様だった。

「――」

 しかし、私は焦っては居なかった。何故なら来ると知っていたから。

「ユニコーン!(これで最後だ!)」

 女郎花教理の死角をついた接近。私に気を取られていた故に反応が遅れている。

 ケンゴさんの突き出す正拳を女郎花教理は防ぐ様に受けた。





 何の変哲もない中段正拳突き。それが側面の死角から女郎花へ向かっていた。
 奇襲。と言うにはあまりにも単調な一動作。女郎花は即座に『Mk-VI』へ身体を向き直る。
 彼女は無力となった。この男を優先する。
 勝負を決める為に、かわすのではなく、その場で受ける選択を取った。
 側面の『Mk-VI』へ意識を集中する。ショウコの仮面を片手に持つので空いているもう片手で少し身を引きつつ正拳を受けた。

「――ユニ……コーン!(入っ……た!)」
「む……」

 『Mk-VI』は女郎花の反撃を許さぬ繋ぎを見せ、同じ正拳を放つ。しかし、先程と呼吸、動作、速度、威力共に全く変わらない。女郎花は同じように受ける。

 パワーは中々にある。だが、工夫も速度もない攻撃は私には通らん。

 三度『Mk-VI』は動く。それも一、二度目と全く同じ中段正拳突きだった。

「一つ覚えか」

 女郎花は苦無く同じ様に受ける。『Mk-VI』は女郎花に攻撃の間を取らせない様に四度目の中段正拳。

「――――」

 五拳目、六拳目、七拳目と『Mk-VI』は寸分違わず同じ動作で正拳を突き出し続ける。
 女郎花もまた、同じ動作で受け続けていく。

 八、九、十、十一、十二、十三、十四、十五――

 『Mk-VI』の攻撃は止まらない。しかし、どれもが同じ中段正拳だった。女郎花は何一つミス無く受け続け――

「――ぬ……」

 十六、十七、十八、十九――
 止まらない。『Mk-VI』は淡々と中段正拳を放ち、女郎花はそれを受けて受けて受けて受けて――

「――」

 三十拳目の『Mk-VI』の中段正拳を女郎花は受け損い(・・・・)、その身体に中段突きが突き刺さった。

「――ごほ!!?」

 無防備な所に打ち込まれたに等しい『Mk-VI』のパワーに思わずよろける。

 そのよろけは、この戦いにおいてケンゴが掴んだ最初で最後の勝機だった。

「ユニコ!」

 肘打ちを女郎花の顎にかすらせると、更に意識を削ぐ。
 ふらりと女郎花の身体が揺れる。しかし、瞬間的に女郎花は『Mk-VI』を掴むとその場に踏み留まった。

「貴様に……あの光を陰らせ――」

 ガクンッと足場が抜けた様な感覚に女郎花は膝を着く。
 『地崩れ』。ケンゴは身を引きつつ女郎花の乱れた重心を払うと拳を握る。

“じっ様。その奥義ってのは技名とかあるんか?”
“別に無い。お前が勝手に決めぇや”

「ユニユニ――(命名――)」

 拳が来る。女郎花は分かっていても体と意識が乱れた状態では避けられなかった。
 高速で突き出された中段正拳が顔面へと叩き込まれ、身体が大きく跳ねる。

「ユニユニコーン(『ジジィの嫌がらせ正拳』)」

 二度に渡り、脳を大きく揺らされ女郎花はショウコを視界に映し、手を伸ばしつつも世界が暗転し、仰向けに倒れた。

「……ユニ(やべ)」

 そして連続での運動負荷にオーバーフローを起こした『Mk-VI』もメルトダウンし、ケンゴの視界も暗転した。





「ケンゴさん」
「ショウコさん。無事? 怪我はない?」
「ああ」
「女郎花は?」
「気を失っている。君の勝ちだ」
「よかった……これが通じなかったらマジで勝てなかったからね」
「ふむ……色々聞きたいが、一番優先したい事を良いか?」
「どうぞ」
「何故、中段正拳を突き出した状態で固まっているんだ?」
「助けてください……」

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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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