第564話 ユニコ君も殺った
文字数 1,894文字
初動において、一番活気の良い『猫耳メイド喫茶』に大宮司亮が現れた。
3学年、
身長は180センチを越え、ガッチリとした体格は存在するだけで威圧感を放つ。家は道場を経営しており、幼い頃から鍛練を積んでいる事も周知だった。
1学年の頃から体格は大きく、スポーツ系の部活に勧誘されるものの、本人はまだ幼い弟の世話をするとの事で部活動には入らなかった。
鍛練で培った威圧的なオーラと寡黙で口数の少ない事から“恐い”と言うイメージが付きまとうが、実際は真面目で切実な青年であると言う事が時間を得て回りに理解され、交友関係は良いモノが築かれて行く。
しかし、3学年の新学期初頭。大宮司は学校どころか、街を巻き込む程の大惨事を起こした。
それは後にあらゆる勢力が彼に一目置く事になる事件。死者こそ出なかったものの警察沙汰になる程の大事となり、危険人物としての認知がその手の界隈に広がる。
それでも彼が退学にならなかったのは両親や担任、一部の警察関係者も彼を庇った為に、情状酌量として謹慎処分となったのである。
だが、その事件により学校での大宮司のイメージは180度変わった。
『大柄』『寡黙』『真面目』『実は優しい』『感情を表に出すのが苦手な生徒』――だったのが。
『ガチの戦闘民族』『怒らせると殺される』『ヤクザも避けて通る』『街の半分を掃除した』『ユニコ君も殺った』などと噂されるようになり、謹慎から復学した後は今まで中の良かったクラスメイトや慕っていた後輩の殆んどが距離を取るようになった。
そんな学校どころか、街でも要注意人物となる彼が、1学年でも色々な意味で目の保養となる『猫耳メイド喫茶』に現れたのだから、皆の息が詰まるのも仕方の無い事だった。
例えるならワイワイと可愛らしく草食動物でパーティーをやってる所に恐竜がやって来たのと同程度の衝撃なのだ。
見た目からの戦闘力の違いにどうすることも出来ず、ただただ見守るだけの形。
「おい、どうする?」
「佐久間先輩の指示は待機だ」
「でも、いざとなったら取り押さえられる様にはしておくぞ」
「四人でも不安だがな……」
客として並んでいた風紀員の四人は要警戒態勢で状況を見守る。
「…………」
「…………」
現れた
しかし、初戦の相手があまりにも悪すぎる。構図は身長差も相まって小リスとティラノサウルスに回りは見えていた。
周囲の人間も助け船を出すにはあまりにも危険すぎると静観するしかない。
「…………」
「…………」
お互いに無言。大宮司としては、一度失神させている徳道に対して下手な事は言えず、彼女の反応を待っていた。
さて、どうしたモンか……
対応してくれたのが他の生徒なら少しは何とか出来ると思っていたが、まさか徳道とはな……
彼女の事は図書委員である為、鬼灯から少し教えてもらった。内気で物静かな生徒で荒事とは無縁の女の子。前は顔を合わせただけで失神されたし……こっちから声をかけるのは……
徳道は固まったままだった。
まるで凍りついた様に微動だにせず、隠れ眼な事もあってどんな様子なのかも大宮司には読み取れない。
その時、給仕室から出てきたリンカが声をかける。
「いらっしゃいませ。大宮司先輩」
リンカの出現と変わらない声色は場の緊張感を晴らした。心なしか、大宮司もほっとした様子だ。
「すみません、徳道さんはちょっと不馴れで。あたしで良ければ案内しますよ」
「あ、ああ。頼む」
ささ、こちらです、とリンカは大宮司を空いた奥の席へ案内しヒカリが入れ違いで固まる徳道へ声をかける。
「徳道さん、大丈夫? 急に動かなく――ハッ!?」
ヒカリは棒立ちのまま、指一つも動かさない徳道に驚愕する。
死……いや! 立ったまま……落ちている!?
大宮司を前に何度も気絶するのは失礼だと言う“心構え”と、それでもやっぱり恐くて声も身体も動かないと言う“恐怖”が拮抗した結果、徳道の身体と脳が出した結論は、立ったままの失神、だった。
「徳道さん! 死ぬんじゃ無いわよ!」
ヒカリは小柄な彼女を背負うと、退いて退いてー! と保健室へダッシュ。何だ? 何だ? と事情を知らない生徒達は道を開けた。
「…………なんか、スマン」
「大丈夫です。徳道さんも大宮司先輩は良い人だって解ってますから」
徳道の様子に負い目を感じた大宮司だが、リンカの言葉に少しだけ気が楽になった。