第334話 彼もこうしただろう

文字数 2,705文字

 (ドア)を持っての蓮斗の突撃。
 緑屋、黄木、灰崎は左右へ散るが、白山は咄嗟に考える。

 『流力』……流すには体積が大き過ぎるか!

「ぬぅ!」

 白山は正面から逆に体当たりの選択肢を取る。しかし、蓮斗の勢いに負けて逆に弾かれて後方へ下がった。両雄の力比べに板挟みとなった(ドア)は歪みガラスにヒビが入る。

「止まったな」
「ええ♪」

 緑屋は折り畳みナイフを出し、黄木は袖から畳針を取り出す。
 左右から各々の得物を蓮斗の脇と足へ――

「うぉぉりゃ!」

 しかし、蓮斗は(ドア)を軽々と振り回し、緑屋と黄木を弾いた。まるで鉄の嵐。無茶苦茶な動きである。

「ちょっとちょっとぉ」
「そんなこと出来んのかよ」

 予想外。玩具みたいに車のドアを振り回す蓮斗に二人は認識を上方修正していく。
 人と戦っていると認識すれば、こちらの行動が遅れる。

「どうしたどうした! この荒谷蓮斗! 抜けるモンなら抜いて見やがれ!」
「だが、急所は人間と同じで良さそうだ」

 いつの間にか蓮斗の腹にナイフが刺さっていた。(ドア)を振り回した時に灰崎が投げてその腹に刺したのである。

「ぐっ……」

 いつの間!? 刺されたと言う認識をした途端、痛みよりも熱さを感じる。

「いくら馬鹿げた能力があろうとも、所詮は人間である事に変わりはない」

 古式『外歩』。
 意識が他へ向いた一瞬をつくと言うシンプルな技法であるものの、ソレを極めた灰崎は場に三人以上の人間が居るだけで自身を透明人間とするまでに相手の意識から外れる事が出来る。

「荒谷ぃ!」
「! オラ!」

 突撃してくる白山に蓮斗は(ドア)を振ろうと力を入れるが。

「残念ねぇ♪」

 顔を狙った黄木の投げ針を避ける動作を咄嗟に挟む。変わりに白山のタックルをモロに受けた。

「ぐっぅぅ!!」

 よろける蓮斗へ緑屋の蹴りが腹に刺さったナイフを更に押し込める。

「ぐぁぁ!?」
「まだ倒れねぇのか?」

 それでも蓮斗は痛みに耐えるながら盾を振り回す。

「手負い段階だな」

 闇雲な攻撃など彼らには牽制にすらならない。
 幽霊の様に蓮斗の前に現れた灰崎は、その腹からナイフを抜き、心臓を狙って胸に――

「ほう?」

 刺すが、押し込む前に盾の振り回しから脱する。

「じゃあ、俺でフィニッシュだな」

 その振り回しが振り切った瞬間に緑屋は蓮斗の命が届く距離に居た。
 折り畳みナイフを灰崎が作った傷へ刺し込む――

「ひどい有り様だな」
「!?」

 その時、横から走って来たショウコが緑屋に石を当てて怯ませた。
 その僅かな怯みを突いて、蓮斗は緑屋を盾で殴り飛ばす。

「あっぶなー」

 『流力』にて、緑屋はその攻撃をほぼ無傷で受けて距離を開ける。





「アンタ……何で……」
「目覚めが悪くなりそうなんでな」

 ショウコは外との連絡を蓮斗の部下に任せて自分は引き返した。
 当初は部下達が引き返すと言っていたが、この中で一番殺されない可能性はショウコ自分である事、そして彼らが人質にでも取られたら蓮斗は一層動けなくなる事を説明した。

「お前の部下は先に脱出した。一応は警察を呼んでくれる」
「そうじゃねぇ……なんで……戻ってきた!」

 蓮斗達の行動の意味はショウコの脱出だった。彼女もそれを理解してくれた上で蓮斗は身体を張ったのだ。

「全員が助からなければ意味はない。私は誰かの命を踏んで生きる程、偉くはないし、割り切れない」

 きっと彼もこうしただろう。

「……ハッ! あんたぁ……思ったより頭は良くねぇな」
「車のドアを振り回すお前にだけは言われたくないな」

 蓮斗は痛みはあるものの、冷静さを取り戻し一度息を吸って吐く。痛みはある。車も壊した。ハジメにはこっぴどく怒られるだろう。しかし、今はそんな事は全部取っ払う。

「お前らをぶっ飛ばして、悠々と帰らせてもらうぜ!」
「確かにお前達はあまり頭は良くはないな」

 すると、いつの間にか死角から青野が歩み寄って来ていた。
 蓮斗は咄嗟に(ドア)を振るおうとするが、青野はショウコ側に居る為、彼女を巻き込む事から動けない。

「まさか、戻って来るとはな」
「お前達とは違うからな。それにもうすぐ警察も来る」
「そうか。それなら急がないとな」

 と言いつつも青野の口調は何一つ焦っていない。その様子にショウコは確信する。やはり、コイツらは――

「油断するな! コイツらは急に来るぞ!」

 『間切』。蓮斗の忠告をショウコは聞いていたが、それでも青野の接近には反応出来なかった。

「くっ!」

 それでも反射的に手を出す。ソレを青野は易々と避けつつ、彼女の首筋に手刀を適切な力で打ち込む。

 『脈打ち』。その攻撃を受けたショウコは糸の切れた人形の様に気を失い、青野は彼女を抱えた。

「離れやがれ!」
「彼女も吹き飛ぶぞ?」

 青野に向けて盾を向けた蓮斗だったが、意識を失ったショウコを前に手が止まる。

「そろそろさ。そいつは離せよ?」

 緑屋は蓮斗の(ドア)を持つ手を蹴り、ソレを手放させた。

「雌雄!」

 白山が踏み込み拳を向けてくる。咄嗟に頭突きを合わせようと踏ん張るが、

「ごめんなさいね♪」

 黄木の投擲した畳針が膝へ刺さり、力が抜け、その拳をモロに受ける。大きくよろけると、膝から崩れ落ちた。

「ぐっ…………」

 脳を揺らされて身体が言うことを効かない。その目の前にナイフを持つ灰崎が立つ。

「灰崎。殺さなくていい」
「また来ると面倒だぞ?」
「警察が来るそうだ。ソイツに全部擦りつける。死なれる方が都合は悪い」

 青野の言葉に灰崎はナイフを仕舞うと変わりに蓮斗の顔面を蹴り抜いて残りの意識を奪う。

「あ……がぁ……」

 くそ……ったれが……
 仰向けに倒れながら、蓮斗の意識は連れ去らわれて行くショウコ見ながら暗転して行った。





「よし! 敷地は出たな!」
「電話だ! 急げ!」
「おうよ!」

 ショウコと別れて敷地の外に出た蓮斗の部下三人はスマホを取り出す。

「電池切れだ!」
「俺はパケットオーバーだ!」
「あー! 壊れてやがる!」

 各々の事情でスマホは使えなかった。ちなみに壊れてるヤツはショウコを捕まえようとした時に壊れたのだった。

「くそ! 充電するのを忘れてたぜ!」
「動画を垂れ流しで寝落ちしたのがヤバかったか!」
「おいおい! どうすんだよ! 社長と姉さんは戦ってんだぞ!」

 即時の電話は出来ない。ならば、やることは1つ。

「町まで走るぞ!」
「途中に公衆電話があるかもな!」
「人を見つけてヒッチハイクでも良い!」

 じっとするよりも行動する事。それが『何でも屋荒谷』の心意気だ。
 すると、カラスが飛行し近くの木に留まると、次に坂道を上がってかる車の音と、ドッドッドッ! と重い音が響いてくる。

「車だ!」
「助かったぜ!」
「おーい!」

 部下三人は道に身体を出してソレを引き留めた。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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