第332話 ピスピス

文字数 2,316文字

 何故か全ての窓を雨戸で塞ぐ屋敷。
 脱出は困難かと思われたショウコだったが、蓮斗のパワーによって窓枠ごと雨戸を取り外す事に成功した。

「社長ー!」
「お前らー!」

 二階からどうやって降りようかと考えていると蓮斗の部下が窓から顔を出すこちらを見つけ、声を出す。

「トランクにロープがあっただろ! 持って来て投げろ! 後、バンのエンジンをかけとけ!」
「うっす!」

 蓮斗の命令に部下は走って戻っていく。

「用意が良いな」
「俺は、“何でも屋荒谷”だぜ? こう言う状況には慣れっこよ!」
「今初めて知ったんだがな…………」

 これ名刺ね、と蓮斗はハジメに叩き込まれた丁寧な名刺渡しをショウコに行う。

「何かあったらいつでも連絡してくれや」
「商売魂は逞しいが、無事に帰る事が先決だ」
「大丈夫だ。あんたは絶対に送り届ける! この漢、荒谷蓮斗は一度言った事は絶対に曲げねぇ!」
「その前口上はさっきも聞いた」
「ガーハッハッハ! 大船に乗った気で居てくれ!」

 ショウコはモデルの仕事柄、口八丁な異性とは関わる事が多々あったが、蓮斗の雰囲気はどこかケンゴに近いモノを感じた。
 側にいるだけで他を安心させ、大丈夫だと思わせる“力強さ”は、腕っ節の強さだけでは纏う事は出来ないだろう。

「ああ、大型犬か」

 ショウコは蓮斗がピッタリ当てはまる生物が頭の中に浮かび、一人で相づちを打つ。





 ロープを投げて受け取り、蓮斗は自分が持つからと、先にショウコを降ろす。

「簡単にやってくれるな」

 地面に着くと蓮斗の部下が待っていた。アパートでショウコを捕まえようとした二人である。

「あの時はすみませんでした!」
「今さらなに言っても言い訳にしかなりませんけど……謝らせてください!」
「後で良い、後で。逃げるなら急ぐぞ」
「「はい! 姉さん!」」

 背後にロープを持って着地する蓮斗。飛んだのか……、とショウコは自分が出てきた窓を見上げる。普通なら骨折しそうな高さを蓮斗は平然と着地していた。

「「社長!」」
「おう! 行け行けお前ら!」

 蓮斗は最後尾から急かすように走り出した。屋敷の正面に止まっているエンジンのかかったバンに部下、ショウコ、蓮斗の順で乗り込む。

「良いぞ出せ!」
「了解!」

 運転席の部下は親指を立てるとアクセルを全開。バンは意気揚々とその場から走り出した。ピスピス。

「あ、あれ?」

 しかし、即座に速度が落ちると走行が困難になり、ブレーキを踏む。

「何だ!? さっさと行け!」
「いや……社長。何かハンドルが取られるんすよ!」
「なーにぃ!?」
「後輪を撃たれたみたいだな」
「なーにぃ!?」

 ショウコが後ろを見ながら言うと、屋敷の前に立つ男が懐から消音銃を出していた。蓮斗も同様に覗き込む。

「ありゃモデルガンじゃねぇのか!?」
「多分本物だな」

 あんなモノまで待っている部下も居るとは……ただの金持ちと言うワケでは無さそうだ。

 すると、男はイヤホンマイクで中と連絡を取ると、その後ろの鉄の扉が重々しく開き始める。

「走った方がいいな。私は先に行くぞ」
「お前ら! 車は一旦捨てろ!」
「銃とか卑怯だ!」
「マジで!? 本物!?」
「ピスピス言ってたな、そういえば!」

 ショウコはバンのドアを開けて出ると部下三人も飛び出し走り始める。

「さてと」
「「「社長!?」」」

 しかし、蓮斗は走り出すショウコと部下三人に背を向けた。向いている視線は屋敷の方だ。

「お前らは姉ちゃんを送り届けて交番に行け! ここは俺が引き受ける!」
「そんな!」
「俺たちも!」
「お供します!」
「俺様は荒谷蓮斗だぞ! お前ら……俺が負ける所は見たことあるか?」

 パンッ! と手の平と拳を合わせて蓮斗は強者の風格を纏いつつ後ろ目で告げる。

「いつも負けてるっす」
「特にハジメの姉御に」
「前も俺らと土下座しましたよね?」
「だー! 俺様の覚悟に水を差す様な事を言うんじゃねぇ! とっとと行け!」
「私はそうさせて貰う」

 ショウコは淡々とそう言うとそそくさと走り出す。
 その様子に部下三人は、ドライだ! 決断早! 割り切り良すぎっすよ! と彼女の後に続いた。





「車は止めた」
「助かったぜ」

 屋敷から外へ出る青野は銃を仕舞う桃城に礼を言う。
 桃城は元『国選処刑人』では無いものの、黒金陣営の筆頭――黒金真人直属のSPだった。
 銃の所持が認められているのは彼のみで、この敷地内以外での所持は禁止されている他、使った弾丸の報告の義務がある。

「弾丸の報告はお前達の怠慢にする」
「耳が痛いね」

 扉から外に出た青野、緑屋、白山、黄木、灰崎は、横向きに止まったバンと、奥へ走っていくショウコと蓮斗の部下三人を見る。
 そして、殿を努める様に立ち塞がる蓮斗も。

「めっちゃ逃げてんじゃん」
「うっふっふ。捕まえたら好きにしてもいいの?」
「荒谷ぃ! 雌雄は終わっておらぬぞい!」
「敷地の外に出られると面倒だな」
「あー! なに話し込んでんだお前達! さっさとショウコを捕まえろ! もしも逃がしたら……父さんに言ってお前達を檻に入れてやるからな!」

 ユウマは走っていくショウコだけを見て声を上げた。

「他は?」
「面倒なら殺せ! あんなゴミども居なくなっても誰も気に止めない! ただし、ショウコには傷をつけるなよ! アレは俺のものだ!」
「許可出ましたねぇ」
「うっふっふ。血の花を見てもいいのぉ?」
「お前達! 荒谷はこの白山が殺る!」
「じゃあちゃんと引き付けてろよ?」

 緑屋は先行するように走り、黄木は袖で口元を隠しながら歩き、白山は重々しく歩を進め、灰崎はナイフを取り出し逆手に持ち、青野は蓮斗を見ながら四人の後ろに続く。

「お前は本当に馬鹿な野郎だよ」

 蓮斗に向かって呆れる様にそう言った。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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