第64話 とにかく楽して生きたい

文字数 1,840文字

「ただいま、お父さん、お母さん」

 盆休み二日目。あたしは実家から車で一時間程、街を離れた場所にある霊園に来ていた。
 目の前には『鮫島海斗(さめじまかいと)』『鮫島日和(さめじまひより)』と刻まれた墓石が存在している。あたしにとっては祖父母に当たる人たち。

「お祖父ちゃんに、お祖母ちゃん……か」

 まだ、母が学生の頃に事故で他界した二人はあたしにとっては想像も出来ない存在だ。

「色々あって帰ってこれなくてごめんね。枕元にでも立ってくれれば良かったのに~」

 それは、あたしが怖いからやめて、とこの場にいるかどうかわからない祖父母に心から訴えておく。
 しかし、墓石の回りは六年は放置していたにしてはそれ程荒れてない。

「リンちゃん、水を汲んで来てくれる? 入り口の道具置き場にバケツと柄杓があるから」
「うん」

 母は持参した箒とチリトリで周囲の掃き掃除を始めた。
 あたしは少し距離のある入り口へ戻り、古びたバケツと柄杓を借りると、できるだけ近い場所の水道から水を汲むために少しだけ戻る。

「――ん?」

 視界の端に、霊園の中央にある慰霊碑を背にして、一人の男がアイマスクを着けて眠っているのが映った。

「――……?」

 見間違いかと思って一度は通り過ぎるものの、確認の為に戻ると確かにいる。
 魔法少女アニメのアイマスクを着けて、ぐーぐー、と言っていた。

「…………」

 あたしは受付まで戻るとその事を管理の人に話して共に慰霊碑に行き、あれです、と男の人を指差す。
 君は行っていいよ、注意しておくから。と、管理の人は男へ近づき、あたしは母の元へ戻った。

「変な人ってお墓にも出るんだ」

 ここでの余計な問題は心霊現象だけにしてもらいたいものだ。





 あたしが水と雑巾を使って墓石を吹く間、母は花瓶や線香立てを洗いに離れた水場へと行っていた。

「これでよし」

 綺麗になった墓石は質の良い石なのか、拭いたら顔が映る程に光沢を帯びる。

「おや、今年は珍しいねぇ」

 その時、横からの声はあたしに向けられてるモノだった。そちらを向くと、そこには先程のアイマスク男が立っていた。

「……どうも」

 警戒するあたしにアイマスク男は特に気にする様子もなく歩いてくる。

「あらら。日をずらせばよかったかよぉ。ま、いっか」

 何を言ってるのか解らないが、通報する準備はしておこう。

 アイマスク男が近づく。あたしは距離を取りつつ、ポケットのスマホに手をかける。
 男が止まる。あたしも止まる。
 達人の間合い。次に一歩でも近づけば即通報を――

「逝くのが早すぎるよ、お二人さん」

 アイマスク男は墓石に身体を向けると、その様に言って両手を合わせた。

「……知り合いですか?」
「ん? まぁね。でも一度も顔を会わせた事はないし、二人の存在も又聞きさ」
「?」

 意味が解らない。しかし、あたしとしても祖父母の事は他人と言っても良いレベルで何も知らないのだ。

「君は一人? 誰かと一緒?」
「母と来てます……」

 そろそろ戻ってくるだろうが、果たしてこの男と母を会わせて良いものか。

「そっか。うーん、やっぱり神様もきちんと問題を解決してからって言ってるのかね」

 どうしようもねぇな、とアイマスク男は後頭部を掻く。
 男への不信感はどんどん大きくなる。通報したときに有利になるように男の情報は確保しておこう。

「すみません、何者ですか?」
「気になる? オレの事。嬉しいね~」
「……もういいです」

 関わらない方が良さそうだ。一旦、母と合流しよう。

阿見笠流(あみかさながれ)だよ。よろしくね」

 阿見笠。初めて聞く名字だ。

「……鮫島凛香です」
「お、いいね。ちゃんと名乗るのは、ご両親の教えかな?」
「別に……普通の事です」
「ほーう。それとあれかな? 君は今反抗期?」
「は?」

 突拍子もない言葉に思わずそんな言葉が出る。

「若者は反目しての人生だよ。大人に比べれば可愛いモノだからどんどんやりなー」
「はぁ……」
「ちなみにオレの掲げる人生のスローガンは、“とにかく(らく)して生きたい”だ」

 普通にダメな大人だった。
 元々、慰霊碑の前で眠っている事からして変である事には代わりないが……言葉の距離が近い気がしてなんか嫌だ。

 すると、スマホが鳴った。聞きなれた着信音だったので、見てみるがあたしのではなくアイマスク男のだった。同じ着信音……後で変えておこう。

「おっと、悪いね。まぁ、家族は大切に、恋愛も大切に、人生を楽しく生きなよー。君の倍以上は生きてるおっさんからのアドバイスだ。じゃーねー」

 と、言い残すとアイマスク男は通話を始めながら歩いて行った。
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登場人物紹介

鳳健吾(おおとり けんご)。

社会人。26歳。リンカの隣の部屋に住む青年。

海外転勤から3年ぶりに日本に帰って来た。

所属は3課。

鮫島凜香(さめじま りんか)。

高校1年生。15歳。ケンゴにだけ口が悪い。

鮫島瀬奈(さめじま せな)

XX歳(詮索はタブー)。リンカの母親。ママさんチームの一人。

あらあらうふふなシングルマザーで巨乳。母性Max。酒好き。

谷高光(やたか ひかり)

高校1年生。15歳。リンカの幼馴染で小中高と同じ学校。雑誌モデルをやっている。

鬼灯未来(ほおずき みらい)

18歳。リンカの高校の先輩。三年生。

表情や声色の変わらない機械系女子。学校一の秀才であり授業を免除されるほどの才女。詩織の妹。

鬼灯詩織(ほおずき しおり)

30代。ケンゴの直接の先輩。

美人で、優しくて、巨乳。そして、あらゆる事を卒なくこなすスーパー才女。課のエース。

所属は3課。

七海恵(ななみ けい)

30代。1課課長。

ケンゴ達とは違う課の課長。男勝りで一人称は“俺”。蹴りでコンクリートを砕く実力者。

黒船正十郎(くろふね せいじゅうろう)。

30代。ケンゴの勤務する会社の社長。

ふっはっは! が口癖で剛健な性格。声がデカイ。

轟甘奈(とどろき かんな)。

30代。社長秘書。

よく黒船に振り回されているが、締める時はきっちり締める。

ダイヤ・フォスター

25歳。ケンゴの海外赴任先の同僚。

手違いから住むところが無かったケンゴと3年間同棲した。四姉妹の長女。

流雲昌子(りゅううん しょうこ)。

21歳。雑誌の看板モデルをやっており、ストーカーの一件でケンゴと同棲する事になる。

淡々とした性格で、しっかりしているが無知な所がある。

サマー・ラインホルト

12歳。ハッカー組織『ハロウィンズ』の日本支部リーダー。わしっ娘

ビクトリア・ウッズ

30代。ハロウィンズのメンバーの一人で、サマーの護衛。

凄腕のカポエイリスタであり、レズ寄りのバイ。

白鷺綾(しらさぎ あや)

19歳。海外の貴族『白鷺家』の侯爵令嬢。ケンゴの許嫁。

音無歌恋(おとなし かれん)

34歳。ママさんチームの一人で、ダイキの母親。

シングルマザーでケンゴにとっては姉貴みたいな存在。

谷高影(やたか えい)

40代。ママさんチームの一人であり、ヒカリの母親。

自称『超芸術家』。アグレッシブ女子。人間音響兵器。

ケンゴがリンカに見せた神ノ木の里

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