第554話 ハロウィンズの食卓
文字数 2,271文字
「サマー、砂糖と塩が逆ね」
「バカな! 1個ちょうだい! くぅ! マジじゃ! 配分は完璧だったのに!」
サマーはケアレスミスから、長年のだし巻き卵の研究の成果をミスった事に、頭を抱える。
「でも、美味しいですよ」
「いや、マザー! 美味しいと言うな! 明日の朝、もう一度振る舞うからのぅ!」
「相変わらずサワガシイ、ロリデース」
「ガリア。貴方は少し自重しなさい。あまりに勝手が過ぎると権限を制限しなければならなくなります」
「oh……」
「そーそー、この常識知らずにもっと言ってやってよ、マザー」
「ビクトリア。お前も人の事は言えんぞ」
食卓を共に囲む、ブルーは最近のビクトリアの事をマザーから聞いていた。
「くふふ。流雲殿の事になると、二人は暴走してしまいますからねぇ」
「小生らで、は! 武力介入は無理、だ!」
「レツ、テツ」
海外や任務で空ける事が多い二人とは違い、常にサマーの元にいるレツとテツをマザーは見る。
「本当に、サマーをいつもありがとう」
「くふふ。当然の事ですよ」
「好きでやっているので、す! お礼を言うの、は! こちらの方で、す!」
「ショウコも」
マザーの視線に、ん? とショウコは視線を向ける。
「事の経緯から自由を制限しているのに、サマーの事を気にかけてくれて本当にありがとう」
「必要な事だとは理解している。おかげで、毎日が楽しい、サマーも可愛い。だからWin-Winだ」
そんな食事会は一つの家族のように和気あいあいと進んだ。
食事会も終わり、皆で片付けも済ませた後、改めてケンゴの告白した『フェニックス』の事について、議論が入る。
「……やはり、と言うべきですか」
マザーはUSBの中身――大鷲将平の日誌を見ながら断片的だった情報が全て繋がったと感じていた。
「マザーよ、『フェニックス』の情報は殲滅作戦の時はなかったのか?」
「敵も
エージェント“ブルー”こと、インディゴ・ブラオが代わりに補足する。
「でもさ、メストレ。『ジーニアス』事態が壊滅するのにソレを使わないのって無くない?」
日誌の情報からも見て解る通り、『フェニックス』は凄まじい感染力を持つ。こちらの誰か一人に感染させるだけで多大な被害を与えられたハズだ。
「……よもや、奴らも対抗策を持ち合わせておらんのか?」
サマーは不自然な『ジーニアス』の動きにとある推測を口にする。
「くふふ。確かに、自分達が感染してそのまま全滅してしまったら意味は無いですからねぇ」
「そし、て! その研究の為の施設、を! 壊滅させたのな、ら! 奴らも手詰まり、と言うこと、か!」
サマーの推測は真実に近いとレツとテツも意見する。
「そうですね。三人の仮説も可能性の一つでしょう。この件は慎重に吟味する必要があります。サマー、このUSBは私が持ち帰りますが良いですね?」
「元よりそのつもりじゃ」
「この件に関しては『ハロウィンズ』の本部で検討します。貴方たちは引き続き、日本での活動を頼みますよ」
この情報からでも多くの懸念はある。しかし、本格的に話し合う前に情報の裏を照らし合わせる事が必要だった。
「皆さんの今度の活動はどうなっていますか?」
「おお、そうじゃ! 何とテツがなぁ、パーティーに招待されたのじゃ!」
「ぬぬぅ……全く、の! 予想外だっ、た!」
「オフ会と言うモノですか?」
「くふふ。ある意味そうと言えるかも知れませんねぇ」
「最初は美人局だと思ったけどねー。まぁ、チケットも渡されて、ショウコでも裏が取れたし」
「ショウコは?」
「私はイベントの一つを頼まれた。テツとは日付が違うが、久しぶりに仮面と剣を人前で振るえる」
「何を言うか。女郎花教理に対し、存分に振るっていたくせにのぅ!」
「アレは別だ」
ショウコの事も特に不信感なく接しているサマーにマザーも微笑む。
「マイゴット。ワタシには重要なミッションがあり、
「気にする必要はない、ミツ。学生の祭り会場だし、念のためビクトリアもついて来てくれるからな」
「あら、ガリア。貴方は休暇ではなかったかしら?」
ケンゴを狙わないように釘は差したばかりなので、それとは違う案件? とマザーは問う。
「YES。ジャパンに来た理由はただ一つデース。いざ行かん、聖地アキハバラへ」
「そういや、オマエってさ。ソレ目的で日本支部の所属に手を上げたんだろ? その聖書もカバーだけで中身はラノベだし。アホ丸出しだな」
「ワタシのマイゴットを愚弄するなカァス!!」
「オマエ、何人神様いんのさ」
ガリアは変わり者の多い『ハロウィンズ』では特に変わっている。そして、生粋のヲタクでもあった。
その為、ビクトリア以外とは割りとノリが良い。
「くふふ。ナビは拙僧にお任せを。あの町は数年間を空けるだけでも違う町となりますからねぇ」
「頼みマスヨ、レツ。無知なメス猿には理解デキナーイ、崇高なロードナビを」
「オマエ、ちょっとアタシとホーダーやろうよ。久しぶりにさぁ、そのイカれた中身を蹴りたくなったわ」
「フッ、何とも愚かナ。自らのワタシに罰されに来るトハ」
不適に笑うビクトリアと、十字切るガリアは中庭でホーダーを行う事となった。
本気の殺し合いに発展しそうになった所で、ブラオが割り込み、変わり替わりでマザーを含めて全員が参加していく。
そんなこんなで最後は皆の笑みで夜も更けて行った。